NEWS CIT ニュースシーアイティ

2023.1.15

ロケット 和田教授ら 成層圏で気球から


空中発射実験に初成功
宇部市の採石場敷地から放球された気球
宇部市の採石場敷地から放球された気球
 和田豊・工学部教授とAstroX(本社・福島県南相馬市、小田翔武代表取締役)は12月10日、山口県宇部市の採石場敷地で、気球から打上方位角を制御しロケットを空中発射する実験に世界で初めて成功したと発表した。
 和田教授はAstroXと共同で、気球を使って衛星を搭載したロケットを成層圏まで放球し、そこから打上方向を制御したロケットを空中発射して狙った地球を周る軌道に人工衛星を投入するロックーン(Rockoon)方式という衛星軌道投入サービスを研究開発している。今回はその第一歩となるモデルロケットの気球からの空中発射実験。
 実験では、空中で姿勢制御を行い発射できることを確認した上で、吊り条件などを変えて3機の打ち上げを実施し、3機とも成功した。和田教授らは「本試験で得られた成果をもとに、今後は大型化、高度化を図っていきたい」と話している。
 AstroXによれば、人工衛星打ち上げなどの宇宙産業は世界的に急拡大しており、現在約40兆円とされる世界の宇宙産業市場は、2040年には約120〜160兆円になると予測されている。特に、小型衛星の打ち上げ需要が急増しているという。しかし、日本国内では小型衛星を宇宙に運ぶロケットが不足。国内小型衛星のほとんど100%を海外ロケットに頼っているのが現状という。
 この打ち上げ能力不足が現在の日本の宇宙開発の大きな課題となっていることから、和田教授とAstroXはロックーン方式でのロケット打ち上げに着目。これによって、高頻度かつ低価格での小型衛星打ち上げが可能になると期待されている。
■実験の共同研究・協力企業・機関(50音順)
 AstroX(株)、(株)アクシス、(株)岩谷技研、宇部協立産業(株)、千葉工業大学、福島イノベーション・コースト構想推進機構、やまぐち産業振興財団

長瀬研 森さん、地震計を高感度化


2年連続 若手研究者賞
 IEEE(米国電気電子学会)電子回路パッケージング部門主催の第11回シンポジウム(ICSJ2022=昨年11月9〜11日、京都大の会場とオンラインの併用開催)で、森優也さん(機械電子創成工学専攻修士2年、長瀬亮研究室=写真)が「Micro-displacement sensing technique using a Fabry-Perot interferometer with a relay optical fiber(光ファイバを用いたファブリ・ペロー干渉計による微小変位検出)」を発表し、聴講者投票の結果、Early Career Researcher Session Award(若手研究者部門賞)に選ばれた。地震観測に使われているサーボ型地震計を、より高感度にしようと、光通信用ファイバを使ったファブリ・ペロー干渉計の組み込みを提案した。
 ファブリ・ペロー干渉計で振動の大きさと方向を同時に測定するため、新たに光を中継するファイバを挿入した構成を試みた結果、挿入前と同様の結果と方向の算出が可能になり、さらに改善を試みている。
 森さんは「長瀬研OBで日立製作所に勤務する前島寿紀さん(光コネクタ研究で若手研究者賞)に続き2年連続で受賞でき、大変うれしく思っています。支えてくださった長瀬教授や研究仲間に感謝します」と語った。

信川研・荒井さんら


脳波でAD早期診断へ
 2022年情報科学技術フォーラム(FIT=昨年9月13〜15日)の論文を審査していた情報処理学会は12月13日、本学の荒井祐斗さん(情報工学科4年、信川創研究室=写真)と信川教授・金沢大・福井大・魚津神経サナトリウム(富山県)の6人が発表したアルツハイマー型認知症に関する共同研究など、8件にFIT論文賞を授与すると発表した。授賞式は9月に大阪公立大で行われる予定。
 アルツハイマー病(AD)は脳の一部が縮んでいく病気で、現在、認知症の約65%を占め、増加が予想されている。治療法は未確立だが、抗認知症薬の服用で進行を遅らせることができるため、早期発見が重要となる。
 荒井さんと信川教授らは、脳の神経活動を伝える脳波で、ADの特徴的な脳波のハブ構造の変質を早期に捉える研究を開始。AD患者と健康な高齢者を対象に安静時の脳波を計測し、脳部位間の神経活動の同期現象を捉えるPLI(Phase Lag Index) で推定された機能的神経ネットワークを評価した。
 その結果、α波とβ 波、γ波でAD患者と健 康な高齢者のBC値(脳内ネットワークの最短経路長に基づくハブ構造の程度)に有意な差が得られた。これはADの早期診断に脳波計測が指標の1つとなり得る可能性を示し、また、安全安価な確認方法として注目される。
 荒井さんは「(賞を学部生で)いただけるとは思ってなかったので驚きました。これも4年間ご指導いただいた情報工学科の先生方のおかげです」と感想を寄せた。

全日本学生トレース 野村さん・下鳥さん


ロボ先輩後輩で完全制覇
上位を独占した野村さん(右)と下鳥さん
上位を独占した野村さん(右)と下鳥さん
 昨年10月のマイクロマウス中部大会ロボトレース競技で準優勝した野村駿斗さん(未来ロボティクス学科3年、林原靖男研究室)=本紙12・15号で既報=が、第37回全日本学生マイクロマウス大会ロボトレース競技(昨年11月26、27日、神奈川県厚木市の厚木商工会議所で開催)で優勝。先輩の下鳥晴己さん(未来ロボティクス専攻修士1年、同)も準優勝し、2人で日本ロボット学会学生特別賞と団体賞を受賞した。
 ロボトレース競技は、黒い走行面にテープで引かれた白い直線や曲線上をロボットに走行(ライントレース)させ、自律操縦の巧みさとスピードを競う。走行中は自律走行で、人間は操作できない。3分間で5回走行でき、その中の最速タイムを競う。46人が参加し、2人は上位を独占した。
 速度を上げ過ぎるとコースアウトする危険があり、ロボットが跳ねないよう搭載したドローン用プロペラなどを調整して臨んだ。10月の大会に比べ大幅に高速化したという。
 野村さんは「全日本学生大会での優勝を1つの目標としてきました。先輩と調整を競い、どちらが優勝してもおかしくない中、優勝できてうれしかった」。
 野村さんらを育てたと自負する下鳥さんは「2人でワンツーフィニッシュを達成できて非常にうれしかった。製作するロボットは1人1台ですが、チームとして協力して完成度を上げられるようにしてきたので、団体賞をいただけ、努力が報われた気がします」と語った。

有害エアロゾル除去装置を開発


山野さん論文、国際誌に
 山野凌さん(応用化学専攻修士1年、五十嵐香研究室=写真)の論文が国際学術誌「Building and Environment(建物と環境)」(昨年11月12日号)に掲載された。
 論文は「Development of a high-speed bio aerosol elimination system for treatment of indoor air(屋内空気処理のための高速バイオエアゾール除去システムの開発)」。
 新型コロナ感染防止対策として、ウイルスを含んだエアロゾルを光触媒と特殊な流路構造で効率よく処理するシステムの開発・設計を試みた。装置を試験したところ、99.9%の非常に高いエアロゾル除去能を確認した。このシステム利用で、新型コロナなどの呼吸器系感染症の拡大抑制が期待される。
 Building and Environmentは、医学・科学技術関係の世界最大規模の出版社エルゼビア(本拠地オランダ)が発行する建築部門のジャーナル。建築科学、都市物理学や、建築環境と人間の相互作用に関連する論文を多く掲載している。
 山野さんは学部時からこの研究を始め、約1年かけて装置を製作した。「周囲の方々のサポートで国際誌掲載にたどり着き、うれしく思います。この技術が社会に役立てるよう今後も励みます」と述べている。