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2021.9.15

河井さんに研究賞 増えるオンライン会議


視線量と印象の関係は…
 人とモノのよい関係を探るヒューマンインタフェース学会のコミュニケーション支援専門研究委員会(SIGCE)は6月24日、2020年度のコミュニケーション支援研究賞を河井陽紀さん(研究発表時は知能メディア工学科4年、現知能メディア工学専攻修士1年、安藤昌也研究室=写真)の「オンライン会議システムを用いた対話中の視線量の多少が印象形成に与える影響」に授与する、とオンラインで発表した。
 コロナ禍でオンライン会議が増加。普段の会話では、人と人の視線は重要な役割を果たすが、Zoomなどのリモート会議では互いの視線が一致しにくい。その影響は?
 河井さんは、視線量と印象に着目し、先行研究を参考に実験を計画。視線量が多い会話映像を見た群、少ない会話映像を見た群、の2群の間に印象の違いが生まれるのかを調査した。その結果、2群の印象に有意な差が見られず、Zoomを利用しての会話でも、視線の量は印象に影響を及ぼさないという結果となった。本来ならオンライン会議に慣れていない人を対象にした実験も必要だが、緊急事態宣言下、オンライン会議の経験者が急激に増え、今回は実験できなかったという。
 受賞研究の発表もZoomによるもので、河井さんは「学部時代に発表したものが受賞し、意外でした。発表ではすごく緊張し何度か詰まりましたが、司会やZoomに登場した方々の温かい雰囲気の中、無事発表を終えることができました。安藤先生のご指導に深く感謝しています」と語った。

PERC黒澤氏ら高速度衝突実験で


小惑星リュウグウ半乾きの原因
「衝突乾燥説」を覆す
 「はやぶさ2」は小惑星リュウグウ探査で得た試料を運び昨年12月に帰還。リュウグウは、水分や炭素を含む炭素質隕石の母天体とされ、地球に水や有機物をもたらしたもとではないか、と試料の分析に期待がかかる。
 ところが米国が探査した小惑星ベンヌが炭素質隕石並みの揮発性成分(熱せられた際にガスを放出する含水鉱物や複雑有機物)を保っていたのに対し、リュウグウは今回の探査で、ガス放出成分が少ない「半乾き」状態だと分かった。
 原因は、天体衝突で加熱を経たからとする衝突乾燥説が唱えられた。しかし、本学惑星探査研究センター(PERC)の黒澤耕介上席研究員=写真=を中心とする研究チーム(千葉工大、広島大、イタリアのダヌンツィオ大)は今回、原因は天体衝突とは考えにくいことを高速度衝突実験で明らかにした。成果はネイチャー・リサーチCommunications Earth & Environment誌の7月22日付電子版に掲載され8月2日、国内報道陣に公開された。
 衝突乾燥説は、リュウグウの母天体に外来天体が衝突、加熱され揮発性成分を失ったとされる。過去の衝撃実験から類推されたが、実験条件が古く、天体衝突に関する現代の知見には合わないと指摘されていた。
 炭素質隕石は水分を約10%、炭素を3%含む。はやぶさ2が持ち帰った試料を使いたいところだが、高速度衝突実験では破壊され、失われてしまう。
 黒澤チームは、地球上で手に入る材料を組み合わせ、代表的な炭素質隕石であるオルゲイユ隕石を模して作られた炭素質隕石模擬粉末を使用し、リュウグウ模擬標的を作成。高速度衝突実験を行った。
 惑星探査研究センターに設置された2段式軽ガス衝撃銃を使い、酸化アルミニウムの飛翔体を秒速4キロ、6キロと加速して標的に衝突させた。衝突速度は、現代の知見から、小惑星帯での典型的な衝突速度に近い値として選んだもので、そこで発生したガスの化学組成と量を計測した。
 その結果、天体衝突時の加熱による脱ガス量は事前予測値の10%程度と、大幅に少ないことが分かり、衝突による脱ガスは従来の想定よりも起こりにくいことが明らかとなった。
 黒澤耕介上席研究員は「小惑星帯における典型的な衝突程度の加熱では揮発性成分をほとんど失わないことが明らかになりました。一方で局所高温領域では検出可能な熱変成を起こすはずで、衝撃を受けた物質は相対的に硫黄に富むことが予想されます」と実験結果を話した。
 得られた知見は、リュウグウ試料の分析結果を解釈する際に提供する予定という。

日産車 駆動モーターの回転子


e-POWERに山崎研技術
 2020年末に発売され現在、木村拓哉のテレビCMが流れている日産自動車の「新型ノートe-POWER(イーパワー)」。その駆動モーターの心臓部である回転子に、本学の山崎克巳・電気電子工学科教授=写真=の研究室のアイデアと技術が生かされている。本学アイデアの実車採用は10年前の日産初のハイブリッド車「フーガHybrid」以来。本学と日産が共同出願人となって特許を出願中だ。
 日産によれば「e-POWER」は、同社が開発した次世代の電動パワートレイン(エンジンで作った回転力を車輪に伝える装置)。
 従来のハイブリッド車はモーターとエンジンの両方を駆動力としているが、e-POWERのエンジンはタイヤとつながっておらず、あくまでもエネルギーを生み出すためだけに使用されている。つまり、エンジンがガソリンを燃料に発電機を回して電気をつくり出し、その電気を使ってさらにモーターを回して、電気自動車と同様の静かな走りを実現したところが最大の特徴という。
 そして、その静かで快適な運転性能を左右するのが駆動用電動機(トラクションモーター)の性能。山崎教授の研究室が発案した回転子によってハイパワーかつ低振動という両立が難しい課題を解決した。例えば、高速道路で追い越しを行う際は十分なパワーを出せる一方で、振動や耳障りなモーター音を極力低減することができるようになったという。
 山崎教授によれば、研究室ではモーターのどの部分がトルクリプル(トルクのムラ)を生み出してしまうのかを数学的に明らかにし、これに基づいてコンピューターを駆使して回転子の自動設計を行った。その結果、新しい回転子を提案できたという。
 日産のような企業との共同研究を、山崎教授は「企業と大学の長所を生かして協力する相乗効果で、最高のものを作り上げられること」を最大のメリットとして挙げている。
 また、「研究室の学生のモチベーションを高め、学生らは社会に直接貢献できる研究と思うと奮起するのか、とてもよい仕事をしてくれる」とも語っている。一方で、企業秘密の保持と、特許や論文発表のタイミングなどの面で企業側と難しい調整を迫られる局面もあるという。
 今後の自動車の未来を、山崎教授は「地球温暖化防止の観点から、間違いなく電気自動車やハイブリッド車が主流になっていく。欧州諸国の多くはかなり以前からエンジン車販売全廃を目指し、米国も同方向。これからの10年で自動車のあり方は激変する」と予想する。
 持続可能な地球環境をどう作っていくか。未来の自動車に本学のアイデアと技術力が求められる機会が確実に増えそうだ。

信川准教授ら 子の脳を測定


母親の読み聞かせが効果
 子どものころ、多くの人が経験している絵本の読み聞かせ。その際、母親が読むと、他の人が読む場合に比べて、子供の脳は活発に情報をやりとりできる状態になることが、本学情報工学科・信川創准教授=写真=や金沢大、福井大などの共同研究の結果、明らかになった。科学誌ニューロイメージ電子版に7月13日付で掲載された。
 研究は、4〜10歳の子ども15人を対象に、自分の母親の読み聞かせを聞いている時と、他の人の読み聞かせを聞いている時の脳活動を、脳の磁場を測定する幼児用脳磁計(MEG)を使って調べた。MEGはこの研究のために産学連携プロジェクトで開発された。
 測定した結果、母親が読み聞かせた時には「脳内ネットワークの強度が高くなり、より効率的な働きになっている」ことが明らかになったという。
 また、読み聞かせ中の子どもの表情解析の結果、「母親の読み聞かせ時に、子どもはより画面に集中し、ポジティブな表情を浮かべていた」ことも分かった。
 研究グループでは、今回の実験は「母親の読み聞かせが子どもの脳内ネットワークに与える影響を明らかにしたもので、高い脳内ネットワークの強度とスモールワールド性(効率的な脳内ネットワーク)が子どもの成長にどのような影響を与えるかは未解明」としている。
 今後は、父親など他の家族に加え、保育士や教員など家族以外の親しい大人の読み聞かせの効果についても検証していく方針だ。