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はやぶさ2 ミッション
「すごい臨場感」 山田主任研究員 絶妙シャッター設定
高度8メートルの合成パノラマ写真。画面下がONC―W1、上がW2の画像=©JAXA、千葉工大、東京大、高知大、立教大、名古屋大、明治大、会津大、産総研 |
「まるでリュウグウに降り立って、至近距離から人工クレーターの内部をのぞき込んでいるようだ」
惑星探査研究センター(PERC)の山田学主任研究員が探査機「はやぶさ2」に搭載された光学航法カメラ(ONC)を使い、小惑星「リュウグウ」に形成した人工クレーター付近を撮影したパノラマ写真が絶賛されている。
この写真は、「はやぶさ2」が「リュウグウ」の地下物質採取に成功した2度目の着地(7月11日)の際に、ONCを構成する3台のカメラのうち、2台の広角カメラ(W1とW2)で撮影した2枚の写真をつなぎ合わせたもの。
W1は探査機の下部に取り付けられていて真下を見ている。一方、W2は探査機の側面から斜め下方を見ており、2台の視野角は微妙にオーバーラップしている。
このため「はやぶさ2」が高度8.5メートルから最終降下を始めた直後なら、これまで真上からしか見ることのできなかった人工クレーターの内部側面がW2の視野に入るはずだ。
このことを模式図=下=を作って証明した山田主任研究員はW2の撮影手順に一瞬だけ変更を加え、高度8メートルでW1が真下を撮影した1秒後にW2がシャッターを切る設定にした。
狙いは見事に的中し、W2の画像には衝突実験で動いたとみられる「移動岩」など、人工クレーターの内部側面が鮮やかに写っていた。
さらにこの画像の上部には「リュウグウ」の地平線と、その向こうに広がる暗黒の深宇宙空間が写り、画像左右の地平線の傾きは探査機が着地時に岩塊に接触するのを避けるためにヒップアップ姿勢をとったことを雄弁に物語っていた。
また、W1の画像には探査機が着地目標にしたターゲットマーカーと、サンプラーホーンが接地したとみられる地点が明瞭に写っていた。
この写真が公開された7月25日の記者説明会で、「はやぶさ2」プロジェクトチームの吉川真ミッションマネジャーは「山田さんが絶妙なタイミングでカメラの撮像を設定してくれたお陰で撮れた。プロジェクトのメンバーも驚いているすごい写真です」と絶賛。
山田主任研究員は「2度目のピンポイントタッチダウンのいろいろな過程を凝縮して物語っている渾身の1枚です」と胸を張った。
PERCは夏休み終盤の4日間、東京スカイツリータウンキャンパスのAreaⅡ惑星探査ゾーンで、4人の研究員による講演会「『はやぶさ2』最新情報!」を開催。「リュウグウ」探査に加わって活躍している第一線研究者の、普段はなかなか接する機会のない“生の情報”を直に聴こうと、小学生を交えた天文マニアなどが熱心に耳を傾けていた。
講演したのは――
▽千秋博紀上席研究員(8月20日)=レーザー高度計(LIDAR)・中間赤外カメラ(TIR)・近赤外分光計(NIRS3)の開発、科学応用研究を担当=写真右
▽石橋高上席研究員(21日)=分離カメラ(DCAM3)の開発と研究を担当
▽山田学主任研究員(23日)=光学航法カメラ(ONC)の開発と運用、研究を担当
▽和田浩二主席研究員(28日)=衝突装置(SCI)の開発と科学検討を担当=写真左
常設展示されている「はやぶさ2」の実物大模型を使いながら、4人の研究員たちはプロジェクトの目的や探査機の構造、搭載機器の種類などを説明。さらに自分が開発に関わった機器や研究がどんな役割を担っているかを、分かりやすく熱心に語りかけていた。
なかでも4人の研究員がともに強調したのが、これまでの探査で見えてきた「リュウグウ」の意外な姿。多くの天文学者がサトイモのような形をしていると予想していたが、いざ行ってみるとソロバン玉のような形で真っ黒、岩だらけ。しかし内部は密度が低くて、瓦礫が集まったような天体らしい――などの話に、会場からは「へぇー!」という驚きの声が上がっていた。
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千秋上席研究員は8月31日、山形大・小白川キャンパスで「はやぶさ2」の原寸大模型=NPO法人ギガスター(愛知県)制作=が一般公開されたのに伴い、特別ゲストとして招かれ講演した。
PERC研究員ら北海道で
この小惑星は、ふたご座流星群の母天体の「フェートン」。同日午前3時45分に0.5秒間、ぎょしゃ座の1等星カペラの近くの12等の暗い星の前を通り過ぎた。その瞬間を捉えようという、これまであまり試みられたことのない難しい観測だ。
「フェートン」は、PERCが宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で進めている小惑星探査プロジェクト「DESTINY+」(デスティニープラス)=下の注参照=の目標天体。小惑星でありながら彗星のように塵(ダスト)を吹いており、活動的小惑星と呼ばれている。
この塵には地球生命の種(出発物質)である炭素やアミノ酸が豊富に含まれている可能性がある。そこで探査機は「フェートン」から距離500キロまで接近し、秒速約30キロの高速で通り過ぎるフェートンの表層をカメラで詳しく観測して、小惑星から塵が放出する仕組みを解明し、フェートンから放出される塵の化学組成を明らかにすることが「DESTINY+」の目的だ。
この探査計画を成功させるには、事前に「フェートン」の大きさや明るさ(太陽光の反射率)を正確に捉えておく必要があるが、これまでに世界各地で行われた観測で求められた大きさ(直径)は、4.6キロから6キロと幅があった。
北海道での今回の「恒星食」観測は、これまでの観測とは別の方法で「フェートン」の大きさについて正確な数値を把握しようという挑戦だったが、渡島半島西岸の15カ所に展開した観測ポイントは全て雲に遮られて、観測は不成立に終わった。
この観測でPERCからは吉田二美研究員が観測計画の立案などの取りまとめ役を務めたほか、洪鵬研究員が参加した。