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ECのメカニズムに迫る

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EC(エレクトロクロミック)とは、材料に電荷を加えるとその個所だけ色が可逆的に変化する現象。反応がやや遅いので動画表現には向かないが、ビルや飛行機の調光ガラス、車の防眩ミラーなどに使われ、電子ペーパーへの応用も研究されている。
EC材料は酸化物系が代表的だが、伊井さんはこれと色変化メカニズムが異なる窒化インジウムについて調べた。そのメカニズムは表面吸着イオンの交代に基づくと推定されているが、イオンの大きさはどうなのか。井伊さんは窒化インジウム薄膜を電解質水溶液中で分極させ、吸光度の差を比較。陽イオンの水和半径が色変化量に関係していることを突き止めた。
研究の独創性や波及効果、視覚による的確な情報伝達などから、ポスター発表82件中、受賞が決まった。
伊井さんは「院生の発表も多く、まさか(学部の)自分が受賞できるとは思っていなかったので、驚きました」と語った。
分析観点を習得させるには

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大学3、4年生にシステム開発課題を分析するための観点▽機能欠陥▽操作性▽利用者――の3つを意識させ、要求分析能力の向上をねらった。また利用者観点を「発注企業の従業員」と「顧客」の要素に分解させて従業員側に注目させ、業務知識に関する観点獲得をねらった。実験の結果、業務未経験者にはシステムに関する問題予測数の増加が確認されたが、業務知識に関する観点の獲得には至らなかった。
苦労したのは、学習者に観点の概念を納得してもらう部分。学習者が行った「システムに関する問題予測」の経験を使って、学習者に「自分が見つけた問題は、どの観点から見つけられそうな問題か」を結びつけてもらうよう工夫したという。
石井さんは「研究が高く評価され、うれしい。“分析の観点を切り口にする考え方”は情報・技術を活用するような問題解決ではどこでも応用できると思います。私自身も観点を意識的に探せるようになりたい」と語った。
ひずみ測定、安価センサで

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物のひずみを測定する光ファイバセンサは、長距離通信や耐電磁ノイズ、耐サージ(回路に瞬間的に加わる大きな電圧への耐性)に優れ、電気式の計測に代わっているが、コストがなお高い。
倉持さんは、光ファイバにある程度の曲率が与えられると曲げ損失が発生することを利用して、安価でひずみを測定できる“損失型センサ光ファイバセンサ”を開発している。センサの構造を、光損失の実測値や計算値からセンサに適した設計値を求めることで、ある程度の設計範囲に絞ることができた。
倉持さんは「受賞にはとても驚きました。長瀬先生や研究室のメンバーのアドバイスと協力があってこその受賞で、とても感謝しています。今後も良い研究成果を得られるように精進したい」と話した。
恋活、環境ストレス分析

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草食系の男子学生が増えているといわれるが、彼女が欲しくても恋愛の進め方が分からない場合が多い。そこで恋愛活動をプロジェクトと置き換え、彼女獲得までを手助けする――。
前回、方法論を提案したのに続き、今回は大城健一さん自身が被験者となり助言者(ステークホルダー)を参加させてプロジェクトを実行した。
話題リストを作り彼女とのデートに臨んだが、会話が弾まなかった▽ステークホルダーの否定的な意見で人間不信になりかけた▽女性に冷たい対応をされプロジェクトを放棄しかけた▽告白し振られた翌日が学会発表だった▽学会発表でも辛辣な意見をもらった――など、散々だったが、分かりやすく資料を工夫して受賞につなげた。
「奨励賞を頂け光栄です。今回は失敗の報告となりましたが、次の秋季研究発表大会までには彼女を作り、成功を発表できるように取り組みたい。協力してくれたステークホルダーの方々に感謝します」
入学直後や就職など環境が大きく変わる時期には多くのストレッサ(ストレス因子)が存在する。他者との交流や協働に必要な環境適応に、どんな要因が関与しているかを明らかにしたい。
関根さんは学部生を対象に▽学生生活で感じている不安▽コミュニケーション能力の自己評価▽グループワーク経験数――などを質問紙で調査。ベイジアンネットワーク(原因と結果間の影響の及ぼし合いを、ネットワーク図と確率で可視化する手法)で分析した。
コミュニケーション能力評価と大学生活不安尺度とのネットワーク構造から分析した結果、コミュニケーション能力が大学生活で学生の抱える不安に関与していることが分かった。
統計ソフト「R」の使い方に慣れておらず、まず数カ月を費やして勉強。データ分析に使うアルゴリズムを決めることにも苦労したという。
「研究を評価していただき、うれしく思います。指導教員の武田先生に大変感謝しています」
片耳音で新知見

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飯田一博・知能メディア工学科教授=写真=が執筆した論文「Upper median plane localization when head-related transfer functions of different target vertical angles are presented to the left and right ears(異なる仰角の頭部伝達関数を左右の耳に再現した際の上半球正中面音像定位)」に対し3月、日本音響学会から論文賞が贈られた。
同賞は日本音響学会誌と「Acoustical Science and Technology」に掲載された論文から、毎年和・英の論文各1篇に贈られている。
従来、音の仰角(前後上下方向)の知覚の手掛かりは、頭部伝達関数(HRTF)の振幅スペクトル情報であることが明らかにされている。しかし、片耳の情報で十分なのか、両耳の情報が必要であるのかは明らかではなかった。
飯田教授は、特殊な装置を用いて、左右の耳に異なる仰角のHRTFを再現する実験を行った。その結果、左右の耳に再現したHRTFの仰角の①いずれかに1つの音像を知覚する、または②両方に2つの音像を知覚する――という結果を得た。これによりヒトは片耳の情報で仰角を知覚できることが明らかになった。
この知見は、ヒトの聴覚科学の発展に役立つだけでなく、3次元音響再生や音のバーチャルリアリティー(VR)の技術開発に応用できる。
飯田教授は「今回の研究成果は、新たな発想による実験を実施できる環境(無響室など)があったからこそ生まれました。このような研究環境を整えていただいていることに感謝します。さらに研究を進め、産業界とも連携して音のVRの実用化を世界に先駆け実現したいと思います」とコメントした。