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2015.4.15

動作4態ILY‐A
ミラノで世界に公開


fuRoとアイシン共同開発
時速10キロ、ビークルスタイルで。左は古田所長
時速10キロ、ビークルスタイルで。左は古田所長
 本学未来ロボット技術研究センター(fuRo)は3月17日、自動車部品製造大手のアイシン精機(株)(藤森文雄社長)と共同で企画・開発した近未来の1人乗り小型モビリティー「ILY‐A(アイリーエー)」を発表した。利用シーンに応じて4スタイルに変形。ベビーカーとほぼ同じ大きさでありながら、ロボット技術を応用した「知能化安全技術」を搭載している。4月14日からイタリアで開催された世界最大のデザインエキシビション「ミラノデザインウイーク2015」でお披露目された。
近未来3輪に注目
 3月17日、東京スカイツリータウンキャンパスで行われた記者会見にはNHK、日本テレビなどのテレビ局をはじめ主要全国紙、専門紙・誌など45社の記者やカメラマンが集まり、「千葉工大のロボット」に対する報道陣の関心の高さを示していた。
 テレビでは同日夕のニュース番組から取り上げられ、リポーターが実際に「ILY‐A」に試乗して機能を説明する場面などが各局で放送された。
 また、翌日の朝刊では朝日新聞が1面で取り上げたのをはじめ、地方紙を含めた多くの新聞が記事を掲載。古田貴之fuRo所長の「幅広い年齢層の生活スタイルを変える『次世代の足』として広めたい」(毎日新聞)などの言葉を紹介した。
 ウェブサイトや専門紙誌はさらに詳しくユニークなその機能などを紹介。「ILY‐A」の名は全国に知れ渡った。
 さらに4月14日から19日までイタリア・ミラノで開催された「ミラノデザインウイーク2015」にも出展。古田所長以下10人の開発スタッフが、アイシンの担当者とともに世界から集まった報道陣へのプレゼンテーションやデモンストレーションを行い、ここでも「ILY‐A」とともに「Chiba Institute of Technology」の名を世界に印象付けた。
知能化安全技術
 「ILY」とはInnovative Life for youの頭文字をとって略したもので、「A」はActive。アクティブなライフスタイルをサポートするパーソナルモビリティーという意味だ。
 ビークル、キックボード、カート、キャリーの4つの形態に変形し、若者からアクティブシニアまであらゆる年代が、さまざまなシーンで活用できるように工夫されている。
 なかでも高度で斬新な技術が、fuRoがロボット技術を応用して新開発した「知能化安全技術」と「知能化自己診断監視機能」。前者は、突然飛び出してくる人や障害物などを認識し、自動で車体の速度を減速し、停止させる。また後者は、システムに異常がないか、常に「ILY‐A」が自身の“健康”状態をチェックする。
 fuRoとアイシンはこれまでもNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで「知能化された電動車いす」の開発に共同で当たるなど、密接な関係を築いてきた。
 「ILY‐A」の企画・開発では、fuRoが主としてロボット技術や知能化技術を、アイシンがデザインを担当した。
 両者は今後5年以内に製品化を目指すことで合意しており、fuRoは知能化や安全技術の一層の高度化を、またアイシンは量産化技術などの研究を進めることにしている。
キャリーとして
キャリーとして

前川君 優秀講演賞 知事賞も


■ROS仕様つくば完走ソフトを公開
 今春、大学院に進んだ前川大輝君(未来ロボティクス専攻修士1年・林原靖男研究室)が、未ロボ学科4年時に、第15回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(2014=昨年12月15〜17日、東京都江東区の東京ビッグサイトで開催)で「i‐Cartminiを対象としたつくばチャレンジ用ソフトウェアパッケージの開発」を発表し、優秀講演賞に選ばれた。
 また、本学が特に推薦し、県内私立校の優秀生の1人に選ばれ、学位記授与式で平成26年度千葉県知事賞が贈られた。
 前川君らは、自律走行ロボットの大会「つくばチャレンジ」の走行ソフトウエアに、ROS(米W・ガレージ社公開のロボット用ミドルウエア。欧米などで普及中)のナビゲーションシステムを活用することを計画。大会で常勝中の本学チームの技術を基に、ROSベースのソフトを開発した。
 これを、筑波大を中心に開発された標準的台車「i‐Cartmini」(市販)に組み込み、完走実験に成功。ROS仕様の“つくば完走ソフト”としてパッケージ化し、世界に公開した。i‐Cartminiにインストールすれば、どのチームも完走が可能になるという。
 開発は林原教授の指導の下、研究室の4人で取り組んだ。ソフトパッケージは、ROS2ベースの分散型フレームワーク上で開発した。
 自律走行するには、センサーや緊急停止スイッチの追加が必要。前川君らは、分散型フレームワーク上で機能ごとにソフトをモジュール化し、柔軟な組み替えができるようにした。
 自己位置推定、経路計画の探索機能などの制御ソフトも、分散型フレームワーク上で開発。本学構内で走行実験し、障害物回避など一連の動作を確認した。
 前川君は、完全優勝したロボカップ世界大会2014チームの学生リーダー。ROSに関心を持ち、以前から企業と合同で勉強会を主催するなど、未ロボ生として学業や活動に積極的で、知事賞に選出される理由となった。
 前川君は「私たちが築いたものをベースに、より課題の高度化、情報共有の加速が期待できる。日本で培われたロボット技術を、ROSを通じて世界中に発信したい」と語っている。
サッカーロボを手に前川君
サッカーロボを手に前川君

桜沢さん岩澤君 ポスター賞


■高分子学会の若手セミナーで発表

 第32回高分子学会千葉地域活動若手セミナー(3月9日、千葉工大津田沼校舎6号館で開催)で、桜沢瞳さん(生命環境科学専攻修士2年・寺本直純研究室)と岩澤綾亮君(生命環境科学科4年・島崎俊明研究室)がともにポスター賞を受賞した(学年は受賞当時)。

 桜沢さんが発表したのは「二つのメルカプト基を有するトレハロース誘導体を用いたポリマーの合成」。
 再生医療分野では、生体に親和性があり安全なポリマー材料の開発が求められている。桜沢さんは、細胞内の還元的雰囲気により結合が切れる、メルカプト基のジスルフィド結合に着目。結合が切れたときに体内に薬物を放出する薬物運搬体に利用できないかと考えた。
 簡易な方法で2つのメルカプト基を持つトレハロース誘導体を合成。これを酸化重合させてジスルフィド結合を有するトレハロースポリマーを合成した。用いたトレハロースは天然二糖類で、親水性・生体親和性がよく、甘味料や細胞保存溶液に使われる。誘導体とは、元の特質をあまり変えない程度に改変したもの。
 得られたトレハロースポリマーの、還元による分解挙動を調査し、薬物運搬体として利用できるよう微粒子化を行った。
 有機合成では、数回で成功することはまれで、大抵は反応条件が定まるまで実験繰り返しの日々が続く。その分、反応がうまく進行したり納得できるデータを得られたときの達成感が大きく、実験が好きになる。諦めず取り組む姿勢を学んだという。
 ポスターがよくまとまっており、質問への回答や説明が明確だ、と評価された。
 桜沢さんは「卒業前に賞を頂き、大変光栄です。これまで頑張ってきたことが報われるようです」と喜び、「他大学の学生や先生方に自身では気づかなかった点をご指摘頂いたので今後の研究に生かしたい」と語った。

 岩澤君は「エチニレンを介したΠ共役カルバゾール三量体の合成及び物性評価」を発表した。
 有機化学で、モノマー(単量体)とこれが多数結合したポリマーの間の、分子量が比較的低い重合体はオリゴマーといわれる。オリゴマーは低分子と高分子の中間の性質を表し、生体たんぱく質を構成したり、液体や固体に姿を変えて塗料や接着剤、化粧品などに広く使われている。
 オリゴマーのユニット数を制御して、目的の物性を持つ化合物を合成しようと、さまざまな研究が展開されている。岩澤君は、原油などに含まれ、電気的酸化還元に優れた安定性を持つカルバゾール(複素環式化合物の一種)を用いて、オリゴマーの最小単位・三量体を合成。カルバゾールの置換位置を変えた時の物性変化の計測データを集め、発表した。
 目的化合物の合成条件や、精製方法の検討に苦心したという。計測データがしっかりとまとまっており高く評価された。
 岩澤君は「千葉工大の発表者中、学部4年は自分しかおらず、まさか受賞できるとは思いませんでした。1年半、頑張ってきてよかった」と受賞を喜んだ。

受賞した桜沢さん(右)と岩澤君
受賞した桜沢さん(右)と岩澤君