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2011.10.15

再解明へデータ提供


広島原爆と「黒い雨」
小泉教授の研究室
(左)原爆投下直前と(右)投下直後の広島市街地航空写真(広島市相生橋周辺)〔国土地理院発行〕 (左)原爆投下直前と(右)投下直後の広島市街地航空写真(広島市相生橋周辺)〔国土地理院発行〕
ひだり原爆投下直前とみぎ投下直後の広島市街地航空写真(広島市相生橋周辺)〔国土地理院発行〕
 建築都市環境学科の小泉俊雄教授=写真下=が6年前に発表した、広島市の原子爆弾投下直前・直後の市街地図と被害分布図が、最近仕切り直した原爆の被災実態再解明への国際共同研究を、大きく支えることになった。
国際共同研究に貢献
小泉俊雄教授
小泉教授が作成した被害分布図(相生橋周辺)赤色部分=全壊(70%以上)、桃色=半壊(20%以上70%未満)、青色=一部被害(20%未満)、緑色=被害なし
小泉教授が作成した被害分布図(相生橋周辺)
赤色部分=全壊(70%以上)、桃色=半壊(20%以上70%未満)、青色=一部被害(20%未満)、緑色=被害なし
 原爆投下直後に降った「黒い雨」など放射性降下物について、広島市は7月、最新の研究成果や再収集した知見をもとに論文集を刊行・公開。このうち小泉教授は「原爆投下直前・直後の広島市街地の数値地図作成」と、「1945年広島原爆で引き起こされた火災で発生した熱、水および炭素の生成量の推定」の項を担当した。論文の詳細は、国内外に広く伝えるため英語版(日本語要約版付き)となっている。
 原爆は米軍機により1945(昭和20)年8月6日午前8時過ぎ広島市に、9日午前11時過ぎには長崎市に投下された。直後に降った放射性降下物について、戦後65年余、いろいろな研究が行われてきたが、実態は未だに十分に解明されていない。
 広島市は昨年、最新科学で再解明することを目的に、地球化学、放射性物理学、原子力工学など各種分野の専門家と連携し「広島原爆による放射性降下物等実態検証に係る関係者協議会」を構成。再研究をスタートさせた。
 一方、小泉教授は、原爆投下前後に米軍が撮影した航空写真を入手したことから、これを分析して2005年に、投下直前の広島市街地全域の地図(縮尺5000分の1)と、投下直後の被害分布図を国内外で初めて作成。家屋各戸、竪牢建造物、道路、河川、橋梁、鉄道などを描き、平面位置と高さ情報を備えた数値地図にまとめた。また、継続研究を学生の卒論テーマとして指導してきた。
 原爆投下前に、可燃物(建物など)が、どこにどれだけ存在していたかの情報は大変に貴重。小泉教授と交流のあった広島原爆記念館職員が、教授の研究成果を協議会に紹介し、教授も協議会メンバーに加わった。
 小泉教授は、放射性降下物と「黒い雨」の実態検証に関する国際共同実験(相互研究)に向けて、研究者にモデル計算のための初期値や、検証のためのデータベースを提供することを主目的に
 原爆投下直前の、建物1軒1軒が記載された広島市街地全域地図
 原爆投下直後の建物1軒1軒の全・半壊、一部被害、被害なしが記載された市街地全域地図
 被災家屋数と堅牢な建物数、および、建物個々の緯度・経度・面積・高さのデータ
 などを協議会に提供。研究室の成果を論文集で上記の項に展開した。
 これらのデータを生かして、気象研究所の青山道夫氏は、広島原爆で引き起こされた火災で発生した熱、水および炭素の生成量を推定。この推定量は、広島原爆の際に観測された雲や降水現象を数値モデルで再現計算する際、重要な要素となる。
 小泉研究室では、広島原爆の研究を続けていたものの、今回依頼があった時、卒論生はすでに他項目で卒論を執筆中だった。追加作業することになり負担が増した。幸い頑張り屋の学生と、周囲の協力もあったので、何とか作業を成し遂げることができたという。
データ活用願う
 小泉教授は「作成地図が協議会の目に留まり、大きな貢献をなし得たことに、研究者として満足感を味わっています。この成果が、国際共同研究のデータとして、今後さらに活用されるよう願っています」と語っている。

 <黒い雨> 原爆投下後の広島市と長崎市に激しく降り注いだ黒色、大粒の雨。爆弾炸裂時の泥やほこり、すすを含み重油のような粘り気があった。強い放射能を帯び、爆風・熱線被害を受けなかった地域にも降り注いで2次被ばく被害を広げた。雨に直接打たれた人は頭髪脱毛や歯ぐきからの大量出血、急性白血病などを起こした。

学会全国大会で優秀賞


仲林教授の“授業実践”論文
仲林清教授
 情報科学部情報ネットワーク学科・仲林清教授=写真上=の論文が、第36回教育システム情報学会全国大会(9月2日、広島市・広島市立大学)で優秀賞を獲得した。
 論文は「『情報と職業』における技術イノベーションを主題とする授業実践」と題するもの。教育システム情報学会(会長=岡本敏雄・電気通信大学教授)は、教育分野でのコンピューター利用などについて研究交流している。
 仲林教授は、高校教科「情報」のための教職科目「情報と職業」で、情報分野における技術革新を扱った授業を実践した。
 新しい情報技術の開発・普及過程を考える場合、技術的新規性だけでなく、その価値を利用者や社会の側から模索することの重要性に理解が及ぶことを狙った。
 実際の技術開発過程を扱ったドキュメンタリービデオと、学習者間の意見共有を目的にオンラインリポートを活用した授業を設計して実践。その結果、学習者に、授業目的に沿った学習効果が確認できた(授業自体は、他大学で非常勤講師として実施)。
 これを論文として発表したところ、全231件中、特に優秀と評価され、受賞5件のうちに選ばれた。
 仲林教授は「技術イノベーションという教育主題は本来、社会人向けのMOTコースなどで扱うもの。学部学生には縁が薄く、抽象的でとっつきにくい内容と思われます。今回は、そんな抽象的な内容を、学生であっても深い理解を得られるよう授業を工夫し、実際に効果を確認した点が評価されたと考えます。同様の手法を本学の授業でも展開して、教育の質の向上に努めたい」とコメントしている。