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2021.3.15

宇宙探査や鉄器文明語る


「朝日教育会議」を遠隔開催
 「朝日教育会議2020」が2月23日、本学の建学の精神「世界文化に技術で貢献する」をテーマにインターネット・ライブ配信で開催された=写真。このフォーラムは朝日新聞社が主催し、本学が共催。同新聞社が首都圏などの大学・法人とのジョイントで開催している連続フォーラムの一環。直面する社会的課題を議論し大学から発信。当日は約千人の当選者がライブ講演を視聴した。
若者たちはチャレンジを
 第一部では、松井孝典学長が「鉄器文明の起源を探る」と題し基調講演。第二部では松井学長と本学惑星探査研究センター(PERC)の荒井朋子主席研究員、お茶の水女子大物理学科卒で「宇宙女子」を出版したタレント・黒田有彩さんが「宇宙探査の新時代」をテーマにパネルディスカッションを行った。
 基調講演で松井学長は、本学が私立で現存する工業系単科大学としては国内最古で来年、創立80周年を迎えることを紹介。建学の精神に基づき「科学技術文明が生き残るためには、絶えず技術革新を続けなければならず、そのための研究をしていくことです」と述べた。
 また、本学地球学研究センターが行っている鉄器文明の起源を探る研究成果に基づき「技術革新する文明は生き残る。その過去の具体例として鉄器文明を考えてみたい」と基調講演を始めた。
 特に、新石器、青銅器、鉄器と文明が発展してきたという3時代区分法という定説について「青銅器と鉄器は同時代に始まったのではないか。2区分でいいのではないか」と疑問を提示。根拠として、トルコでの発掘調査で4300年前に既に人類が最古の鉄球を作り出していたこと、同時期に鉄隕石で刀も作っていたことが分かっており、人類が最初に使った鉄は鉄隕石の可能性が高いとの考えを披露した。
 最後に「現在は、コロナ禍で世界各地に行くことが制限されているが、今後も積極的に技術革新につながる研究を発信していきたい」と締めくくった。
 第二部のパネルディスカッションでは、松井学長が「日本が宇宙分野で人類に貢献するのは惑星探査であり、日本にとっての命綱。限られた予算でどう戦略を立てていくか」と探査の意義を強調、意見交換が行われた。特に「はやぶさ2」のミッション成功について、本学がほぼ全ての観測機器の開発と科学的検討に関わったことを紹介。小惑星から試料を持ち帰るサンプルリターン技術では「日本が世界を十年以上リードしている」と優位性を強調した。
 今後、日本には火星衛星探査計画(MMX)と深宇宙探査技術実証機DESTINY+(デスティニー・プラス)という小惑星探査計画がある。DESTINY+のサイエンスミッションリーダーを務める荒井主席研究員は、探査計画の提案当初「ふたご座流星群の母天体である小惑星Phaethon(フェートン)と探査機は高速ですれ違うため、技術的に難しい」と学会で賛同を得られなかったエピソードを披露。粘り強く国内外の研究者の仲間を集め、徐々に賛同が得られ、探査計画実現にこぎつけたと語った。PERCは、DESTIN+探査の要となる世界初の宇宙用高速追尾カメラの開発を担当する。
 一方、黒田さんはユーチューブに「黒田有彩もウーチュー部」を開設して宇宙の魅力を発信。中学生の時に作文に書いた「将来の夢は宇宙飛行士」を実現するため宇宙航空研究開発機構(JA]A)が今秋に新規募集する宇宙飛行士に応募すると明言。これからの日本の宇宙飛行士には多様な人材が求められている、と若者らのチャレンジを求めた。
鉄器文明の起源について話す松井学長
鉄器文明の起源について話す松井学長

自転車安全ルート案内アプリ


赤羽研、生徒用に開発
 自転車の死傷事故で未成年、特に15〜19歳の占める割合が18.8%と突出している(令和元年・警察庁調べ)。安全最適な交通システムを追求する都市環境工学科・赤羽弘和教授の研究室では、自転車事故を減らそうと、中学生以上を対象に、自転車を安全ルートに案内するスマートフォン用アプリ『さいくるサイン』を開発し、普及を目指している。
 SDGs(持続可能な開発目標)活動と子どもの活力を生かす事業を展開中の(株)イノビオット(千葉市中央区)との共同研究で、「ちばぎん研究開発助成制度2020」に採択された。
 アプリは、該当地のマップを呼び出し、目的地を設定すると、所要時間と事故データなどに基づいて算出した安全度(例=44分 70.0点など)が記された最大3つの“お勧め経路”がカラーの実線で表示される。特に経路上の危険箇所を通過する際にはアラート(音と振動)が発信される仕組み。
 赤羽研では、昨年10月から船橋市内の中学生たちにこのアプリを配信し、走行記録を取得。ウェブ上でアンケートを取って使い勝手などの評価を集め、安全意識の向上効果、安全スコアとアラートの提供効果を分析、アプリの精度向上に役立てている。
 事故データは千葉県警本部から、他の危険地点データは国土交通省・千葉国道事務所から提供を受け、船橋市の協力を得て進めている。
アプリ『さいくるサイン』と赤羽教授
 
アプリ『さいくるサイン』と赤羽教授
アプリ『さいくるサイン』と赤羽教授

脱毛因子阻害する人工RNA


世界初 坂本教授ら開発
坂本教授(左)と笹生さん
坂本教授(左)と笹生さん
 生命科学科の坂本泰一教授は2月5日、バイオテクノロジーベンチャーの(株)アドバンジェン、北海道医療大、横浜国立大と共同で、毛髪の脱毛因子「FGF5」の働きを阻害する人工RNAの開発に世界で初めて成功したと発表した。画期的な育毛剤になることが期待されるほか、FGF5は癌化を促進することも分かっており、癌の治療薬となる可能性もある。
 毛髪の成長サイクル(毛周期)については研究が進み、線維芽細胞増殖因子の一つ・FGF5が毛根のFGF受容体に結合することが脱毛を促すサインとなることが明らかとなっている。
 今回、坂本教授と天野亮さん(博士課程修了)、笹生みなみさん(生命環境科学専攻修士課程2年)、柳澤拓也さん(修士課程修了)らは、試験管内分子進化法(SELEX法=極めて多様な核酸混合物の中から、特定の活性をもつ核酸を選び出す方法)で、FGF5の働きを阻害する人工RNA(RNAアプタマー=人工核酸)の開発に成功。この人工RNAは事前にFGF5に結び付き毛根の受容体と結合できないようにしてしまう。
 人工RNAによる“アプタマー医薬品”は、次世代型分子標的薬として世界で注目されている。坂本研の成果は現在、培養細胞で阻害効果が確認されただけだが、ヒトで効果が認められれば、育毛剤や癌治療薬の実現へ一気に弾みが付きそう。
 坂本教授は「粘り強く研究を進めてくれた笹生さんら院生、千葉工大と国のサポートに感謝したい。今後もRNA医薬品の開発に貢献したい」と話している。
 成果は2月3日付で、権威あるシュプリンガー・ネイチャーのオープンアクセスの電子版サイエンテフィック・リポーツに掲載された。