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2012.7.15

「はやぶさ2」にPERC技術搭載
小惑星ダストに挑む


観測できれば世界初
衝突装置でつくったクレーターからサンプル採取するはやぶさ2(©池下章裕)
衝突装置でつくったクレーターからサンプル採取するはやぶさ2
(©池下章裕)
 小惑星にダストは存在するのか――。2014年に打ち上げが予定されている小惑星探査機「はやぶさ2」で、惑星探査研究センター(PERC)がこの命題に挑む。小惑星イトカワの微粒子を持ち帰った「はやぶさ」の成果を生かそうと、竝木則行副所長を初めとするPERC所員が後継プロジェクトでのダストの観測を提案。小惑星の周りを浮遊するダストを観測できれば、世界初の快挙となる。
レーザー高度計 開発
カメラ高性能化にも協力
計画を語る竝木副所長
計画を語る竝木副所長
 「はやぶさがどうやって微粒子を拾ってきたのか、実はよくわかっていません」と竝木副所長は話す。はやぶさのカプセルから発見されたのは10〜20ミクロンの微粒子。はやぶさはイトカワに着陸後、採取装置内で金属球を発射し跳ね返る破片を採取する計画だったが、トラブルで発射されなかったため、一般的には着陸時に舞い上がった地表のちりが採取されたと考えられている。
 「空気がなければ物体は放物線を描いて落下するだけ。地球上のように舞い上がることはないので、僕ははやぶさのカプセルにサンプルが採取されるのは無理だと思っていた。正直びっくりしました」
 微粒子は地表にあったのか、それとも浮遊していたのか。どのようにカプセルに入り込んだのか。太陽光でダストが浮遊する現象は月面でも観測されておりイトカワでもその可能性はあるというが、解明すべき謎は残る。「小惑星に小さいダストがたくさんあるとわかったのだから、それを次で生かさなければ」。世界を驚かせたはやぶさの偉業を発展させるため、竝木副所長は動いた。
 ダストの観測にはレーザー高度計の機能の追加や性能の向上が欠かせない。対象物にレーザーを当て、反射するまでの時間から距離を測るレーザー高度計は、探査機が自ら小惑星に近づいていく自律航法の要。ほぼ完成済みのレーザー高度計の設計変更は難しいのを承知の上で、ダストを観測するためにぜひ、と宇宙航空研究開発機構(JAXA)と製作するNECに申し入れた。当初は難色を示されたものの、議論を重ねるなかでレーザー高度計は理想の性能に近づきつつある。
 レーザーを当てた時にダストが浮遊していると、霞がかかったようにぼんやりと反射する光が観測されるという。どれくらいの強さのレーザーを照射するのが最適か手探りの部分もあり、「オプションの観測という位置づけですが、もし浮遊するダストが見つかれば初めての発見」(竝木副所長)と期待が膨らむ。
 はやぶさ2には、新たな試みとして「衝突装置」の搭載が計画されている。目的地の小惑星「1999JU3」は含水鉱物や有機物を含む岩石質と考えられ、宇宙風化や熱の影響を受けていない地中から試料を採取するには人工的にクレーターを造る必要があるからだ。はやぶさ2が持ち帰る試料からこうした物質が見つかれば、生命の起源の解明につながるとみられている。
 その衝突装置に積み込むカメラの性能向上にもPERCは取り組む。探査機本体から切り離された衝突装置が上空約500メートルから特殊な弾丸を撃ち込むと、小惑星上ではどんな現象が起こるのか、直後の現象を鮮明に記録するには当初の装備では不十分だとうったえてきた。予算や時間的な制約があり、PERCの要望するグレードのカメラが選ばれるかまだわからないが、賛同する研究者は多い。ダストが飛び散る様子を克明にとらえられれば、表面状態の解析が進む可能性が大きい。
 レーザー高度計の最初の試作機ができるのは9月。PERCでは連日試験装置の準備が行われている。ダストをつくる装置やダストを測る試験環境を用意し、試作機が到着するやすぐさま性能実験に入る構え。2段階、3段階と試作機の精度を高め、来年4月までの完成を目指す。
JAXAとNECで設計製作中のレーザー高度計(質量3.7キロ)の外観図 レーザー発振器モジュールの部分試作品 PERCが担当する、はやぶさ2ターゲットマーカーのレーザー反射率測定実験
JAXAとNECで設計製作中のレーザー高度計(質量3.7キロ)の外観図 レーザー発振器モジュールの部分試作品 PERCが担当する、はやぶさ2ターゲットマーカーのレーザー反射率測定実験

山崎研2人 優秀論文発表賞


熊谷さんIPMモータの研究で
神林さん誘導モータ効率研究で
 電気電子情報工学科・山崎克巳研究室の修士2年、熊谷誠樹さんと神林恭兵さんが、それぞれの研究で電気学会優秀論文発表賞(35歳以下の若手研究者対象)の受賞が決まった。
 熊谷さん=写真左=の論文は、電気学会産業応用部門大会(昨年9月6日、琉球大学千原キャンパス=沖縄県中頭郡)で発表した「磁気飽和によるdq軸間相互干渉を考慮したIPMモータの回転子設計に関する検討」。
 小型高出力化の要請から生まれたIPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)は、ローター表面でなく、内部に磁石を矩形配置。磁石トルクにリラクタンストルク(コイルが鉄を引き付ける力)も加わって高出力となる。速度の制御性がよく省エネで、電気自動車やエアコンなどに利用が拡大。ネオジム磁石の発明で性能が向上し、日本の技術が世界をリードしている。
 一方で、鉄心の磁気飽和の影響によって、トルクが減少することがある。論文では、トルク減少のメカニズムを、新たな等価回路を用いて明らかにし、実機の実験結果と比較検討した。
 神林さん=写真右=の論文は電気学会回転機研究会(昨年10月27日、長崎大学文教キャンパス=長崎市)で発表した「非線形非定常電磁界解析による誘導電動機の自動形状最適化計算に関する検討」。
 誘導電動機は一般的な産業用や鉄道用交流モータで、その効率が国内で1%向上すれば、50万キロワット級発電所1基分もの電力が節約できると報告されているという。しかし、動作原理は複雑で、電磁界解析に要する計算時間が膨大になり、コンピューターで自動的に形状を最適化した事例がほとんどなかった。
 神林さんは、複素近似解析と過渡解析を組み合わせることによって、初めて自動形状最適化計算を実現し、特性を大幅に向上させ得る形状を提案した。
 熊谷さんは受賞が決まった感想を「大変うれしく思いますが、これに満足せず残りの研究も精一杯取り組んでいきたい」。
 神林さんは「多くの方々に支えられての発表が受賞という形で結果を残せ、大変うれしく思います」と話している。
 熊谷さんと神林さんの表彰式は夏以降開かれる今年の電気学会産業応用部門大会と回転機技術委員会で、それぞれ行われる予定。
 熊谷さんはアイシン・エィ・ダブリュ(株)に、神林さんは(株)ミツバに就職が内定しており、山崎研での研究を生かした仕事に就く予定だ。
 電気学会は1世紀余の歴史を持ち会員は現在、約2万4000人。研究対象の多様化で平成3年から研究会を基礎・材料・共通、電力・エネルギー、電子・情報・システム、産業応用など5部門に分け開催している。