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2012.2.15

巨大津波石―
東日本大震災で畑に


後藤上席研究員が発見
「秒速8メートル余」津波の流速推定
宮古市摂待地区でNHK取材陣に津波石を説明する後藤上席研究員(右、顔写真も)
宮古市摂待地区でNHK取材陣に津波石を説明する後藤上席研究員(右、顔写真も)
 東日本大震災(昨年3月11日)の津波で、岩手県宮古市摂待地区の畑に、直径6.5メートルもある巨大な岩塊が打ち上げられていたことが昨年8月末、発見された。岩塊は重さが140トンもあり、海岸の防波堤近くから約470メートル運ばれたと分かり、津波石と呼ばれる。
 この津波石を発見したのが、津波合同調査チームの中心メンバーとして活躍していた惑星探査研究センター(PERC)の後藤和久上席研究員。成果は読売新聞(12月3日付)で取り上げられるなど、大きく注目された。その後の研究で、津波石を移動させた津波の流速は、少なくとも秒速8メートルに達していたことが分かり、津波の巨大エネルギーが明らかになった。
 国内外の研究者は、震災直後から分野を超えて協力し、津波の実態を明らかにしようと現地調査を続けている。後藤上席研究員は専門が地球や火星の地質学で、ユネスコなど国際機関とも協力しながら被災地の被害状況把握と、復興のための研究を行っている。
 今回津波が「千年に1度」と呼ばれるゆえんとなった貞観津波(西暦869年)の地質調査にかかわっていたので、大震災と「貞観」の津波規模を比較し防災に役立てようと、摂待地区を調査していて津波石を発見した。
 後藤研究員は「被害をもたらす津波の力は、波高だけでは評価できない。津波石のような物的証拠から津波の流速を推定することで、建物などに実際に加わった力を計算できる。こうしたデータを今後の復興計画に生かしてほしい」と話している。
 また、「今回の津波は、惑星地質学でも重要な研究対象になる」と、PERCの小松吾郎客員主席研究員や、火星地形研究の世界的権威、ビクター・ベーカー博士(アリゾナ大学)とも共同研究をスタートさせ、今回の津波で起きた地形変化と、火星で見られる地形の比較を行っている。

「クインス」の本学、特別賞
原発建屋での活動評価


千葉イメージアップ大賞
災害対応ロボット「クインス」 小柳副所長(中央)と吉田研究員(右)、西村さん
災害対応ロボット「クインス」 小柳副所長(中央)と吉田研究員(右)、西村さん
 千葉県のイメージアップに貢献した団体・個人に贈られる第15回「千葉イメージアップ大賞」(主催・毎日新聞企業人大学)の特別賞に学校法人千葉工業大学が選ばれ、未来ロボット技術研究センター(fuRo)の小柳栄次副所長らが1月16日、千葉・幕張のホテルで開催された表彰式に臨んだ。
「観太くん」以来の受賞
 福島第一原発に投入された災害対応ロボット「Quince(クインス)」の開発が受賞の理由。放射能汚染エリアで活動できるよう、いち早く改良し、2号・3号機原子炉建屋内の動画撮影や放射線量の測定など状況把握に成功した功績が高く評価された。
 主催者側からは「日本のテクノロジーの優秀さを示してくれた」「クインスがなければ福島第一原発ではまだ冷温停止作業に四苦八苦していた可能性さえあるのでは」との評も。表彰状とトロフィーを授与された小柳副所長は「また一つ力をいただいた。福島県民が安心・安全な生活に戻れるよう、今後30年とも40年ともいわれる廃炉までの道のりのお役に立ちたい」と受賞の喜びを語った。
 大賞を受賞したのは、J1リーグ復帰1年目で初優勝を遂げたサッカーの柏レイソル。特別賞はなでしこジャパンのFW丸山桂里奈選手(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)とのダブル受賞で、「いずれも2011年の日本のうっ屈を跳ね飛ばす活躍をされ、希望を与えてくれた」と河野俊史・毎日新聞社取締役編集編成担当。森田健作知事も駆け付け「これからも県民こぞって応援していきたい」とエールを送った。
 表彰式には小柳副所長とクインスの開発を進めてきた吉田智章上席研究員、本学大学院未来ロボティクス専攻修士2年の西村健志さんも顔をそろえた。吉田上席研究員が原発災害に対応するための組み込みソフトを書き上げ、西村さんが機械と回路の製作を担当。「考えられるあらゆる事態に先回りして対処できるプログラムを目指した」(吉田上席研究員)。「ボルトの緩み一つもあってはいけない。過酷な環境下できちんと仕事をする信頼性を追求した」(西村さん)。万全を期してクインスを福島に送り出しながら、両者とも実際に活躍できるか確証はなかったという。「これで大丈夫と思った時点で人間は見落としをするもの」と西村さん。「想定外」を許さない入念な準備と真摯な姿勢が着実に成果を生んだ。
 順調に任務を遂行し国産ロボットの面目を施したクインスだが、昨年10月20日に2号機原子炉建屋内で通信が途切れ、停止状態に陥ったまま。fuRoは新たなロボットの投入を準備している。
 本学関係者の同賞受賞は、鯨観測衛星「観太くん」の開発により第6回大賞を受賞した林友直教授(当時)以来2回目。

「竸基弘賞」特別賞も


 レスキュー工学分野で貢献した若手研究者・技術者を表彰する「第7回竸基弘賞」(国際レスキューシステム研究機構〈IRS〉主催、兵庫県・神戸市後援)の特別賞に「クインス」開発チーム(小柳栄次fuRo副所長ら12人、代表=田所諭・東北大学教授)が選ばれ、1月21日、神戸国際会議場で行われた授賞式で、記念の盾が贈られた。
 授賞理由について、クインスは昨年6月24日の初投入以来、原子炉建屋内で線量計測やダストサンプリング、配管類の調査などで計6回活動。ことに7月26日に実施した冷却系配管の調査結果は、1カ月後に非常用「炉心スプレイ系」(燃料上部からシャワーのように注水し直接冷却)の稼働に役立てられ、その後の原子炉の安定冷却につながっているとし、開発チームの社会貢献度は極めて高い、としている。
 授賞式に出席した松野文俊IRS副会長(京都大学教授)によると、東日本大震災の被災地域で昨年3月中旬からロボットによる探索活動を行いながらも「(運用面などで)さまざまな壁にぶつかった」という。松野副会長は「我々の意志を次の世代、さらに次の世代と担ってもらうことで、災害対応ロボットが役に立ち、本当の意味で安心安全な日本にしてほしい」と、若手研究者らに呼びかけた。
 fuRoでは、クインスの追加投入に向け、さらに新型機などの開発を進めている。
 竸基弘賞は、阪神淡路大震災(1995年)で倒壊アパートの下敷きになり亡くなった竸基弘さん(当時23歳・神戸大学大学院博士前期課程1年)の遺志を継いで、国際レスキューシステム研究機構の事業の1つとして、10年後の2005年に創設された。竸さんは視覚と力学を融合したロボットによる知的マニピュレーションを研究、「ドラえもんのような、人を癒し助けてくれるようなロボットをつくりたい」と夢を語っていた。