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2021.11.15

PERCの実証衛星


宇宙塵探査へ初期運用開始
内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられたイプシロン5号機=11月9日、JAXA提供
内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられたイプシロン5号機=11月9日、JAXA提供
 本学惑星探査研究センター(PERC)の宇宙塵探査実証衛星「アスタリスク(ASTERISC)」が3度の打ち上げ延期を経て11月9日、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から宇宙航空研究開発機構(JAXA)のイプシロンロケット5号機によって打ち上げられた。宇宙空間への放出も成功、機器も正常に起動し初期運用を開始した。初期運用完了後3年から5年にわたって、独自に開発した世界初の膜状粒子観測装置(大面積膜型ダストセンサー)などの実証実験を行うとともに、宇宙から地球に入ってくる宇宙塵を観測する。
アスタリスク 地球周回軌道に
 アスタリスクは今回JAXAの革新的衛星技術実証プログラム2号機の実証テーマに選定され、他の企業や大学の小型衛星とともに計9基で打ち上げられ地球周回軌道に投入された。衛星製作を他の業者に外注する大学・企業が少なくない中、本学はアスタリスクの金属加工や衛星構造の製作の大部分を津田沼校舎・工作センターの技術職員らが担った。
 PERCの石丸亮・上席研究員によれば、午前10時のロケット打ち上げ後、3番目に宇宙空間に投入されたアスタリスクとは午後9時ごろ、初めて交信し「ホッとした」という。その後、数日間、不安定な時期があったが、試行錯誤の末、衛星の軌道を特定し、安定的に通信ができる初期運用の段階に入っている。
 初期運用後は、膜型ダストセンサーを宇宙空間に開いて、センサーを稼働させ、午前9時頃と午後9時頃の1日2回の通信でデータ収集などを行う本格運用に移行する。
 JAXAの革新的衛星技術実証プログラムを活用したメリットについて石丸上席研究員は「打ち上げ高度が低いと大気抵抗の影響で場合によっては1年持たずに大気圏に突入してしまう。今回は打ち上げ高度をJAXAや他の参加企業、大学と相談できた結果、観測期間が十分に確保できる軌道に決まった」と話す。
 アスタリスクはPERCが独自に打ち上げた超小型衛星2号機。1号機「S-CUBE」は2015年9月に打ち上げられ、16年11月まで約1年2カ月間運用された。
 アスタリスクは10センチ立方のユニットを3個つなげた3Uキューブサット(30センチ×10センチ×10センチサイズ)。搭載する膜型ダストセンサーを用い、宇宙塵に加えて、微小スペースデブリ(宇宙ゴミ)も観測する。宇宙塵は生命の起源や惑星の起源を探る貴重な試料とされる。また、微小デブリが宇宙空間に増えており、環境問題への取り組みとしても定量的な観測・評価を行うことになった。
 JAXAの革新的衛星技術実証プログラムに選定された実証テーマは、膜型ダストセンサーと衛星バスシステム。膜型ダストセンサーについては、ポリイミドで作られた膜に圧電素子という小さなセンサーを接着し、そのセンサーで電気信号を読み取るというシンプルな構成にしたことで、今後、さまざまな衛星や探査機などに使える可能性が広がる。
 バスシステムとは電池や通信機、姿勢制御系など衛星の基本的制御に関わる部分で、本学と東北大、関連メーカーが一緒に開発に参加。電力的に安心で機能的にも信頼性が高いシステムを構築した。将来の深宇宙探査の低コスト化・高頻度化などの効果が期待される。
■革新的衛星技術実証プログラム
 宇宙産業の育成などを目的としたJAXAのプログラム。企業や大学の超小型の人工衛星などを定期的に打ち上げ、宇宙分野に関わる技術や機器・部品を宇宙空間で実際に運用したり実験したりする機会を提供している。1号機は2019年1月18日に小型衛星やキューブサットなど7基を搭載して打ち上げられた。
■アスタリスク開発チーム
 石丸亮上席研究員=プロジェクトマネジャー、サイエンス検討、センサー・バスシステム開発▽小林正規主席研究員=センサー開発▽奥平修研究員=センサー開発▽前田恵介研究員=構造設計▽木村宏研究員=サイエンス検討
アスタリスク開発チーム
アスタリスク開発チーム

「DESTINY」目標天体フェートン PERC


恒星食観測 大成功
岡本尚也研究員が担当した徳島県板野町での観測準備の様子
岡本尚也研究員が担当した徳島県板野町での観測準備の様子
 ふたご座流星群の母天体として知られる小惑星フェートン(Phaethon)の大規模な恒星食観測が10月4日未明、韓国南部から日本の中国地方・四国地方・紀伊半島南部にかけて広がる帯状地域で行われた。フェートンは本学惑星探査研究センター(PERC)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が進める小惑星探査計画「DESTINY(デスティニープラス)」の目標天体。DESTINYサイエンスチームが天文関係者に広く協力を呼びかけ、観測が実現した。
 恒星食とは恒星の掩蔽現象とも呼ばれる。肉眼では見えないような遠くの暗い星の手前を小惑星が横切ると星の光が一瞬隠れる(減光する)現象をいう。恒星食では、地球上の位置によって小惑星のどの部分で星が隠れるかが違うため、観測地点ごとに星が隠れる時間も微妙に異なる。多数の地点で対象の星を動画で撮影し「どの時刻からどの時刻まで隠れた」という情報を集計することで、小惑星の実際の大きさや形がわかる。
 今回のフェートンの掩蔽による減光は0.6秒と非常に短く、極めて挑戦的な観測だった。入念に事前準備し悪天候によるリスク回避のため観測地点を分散して臨んだ。観測にはPERCの秋田谷洋上席研究員ら天文学研究者とアマチュア天文家の計68人が参加し計34地点で観測、17地点で減光の観測に成功した。
 DESTINYは「はやぶさ」「はやぶさ2」に続く日本の小惑星探査で2024年に探査機を打ち上げ、28年1月にフェートンへ到着する計画。「地球外から飛来した塵が地球生命の種をもたらした」とする仮説の検証がミッションの目的だ。
 探査機はPERCが開発する2台のカメラとドイツ開発のダスト分析装置を搭載し、フェートンの撮影とその近傍の塵の組成分析を行う。探査機がフェートンを秒速36キロという高速で通過する一発勝負の機会に、カメラはフェートンを自動追尾し撮像する。カメラの露出をその場で調整する余裕はなく、事前に露出時間を正確に決めておくことが必要となる。
 カメラの露出時間は、小惑星表面の明るさに依り、明るさ(太陽光の反射率)は小惑星の大きさに依存する。そこでフェートンの大きさを事前に正確に求めることがミッション成功の鍵となる。
 これまでの観測からフェートンの直径は5〜6キロと推定されているが、精度は十分でない。今回の観測結果でフェートンの大きさは誤差10%程度まで精度を高めることができた。また、これまでの推定よりも、さらにひしゃげた形をしていることもわかった。
 DESTINYの理学ミッション責任者である荒井朋子主席研究員は「今回の結果は、フェートンの一断面に過ぎない。探査機打ち上げ直前まで地上からのフェートン観測を継続し、ミッションの確実な成功を目指したい」と語る。