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2019.5.15

ブレーキ摩耗の本質に迫る


平塚教授の論文が機械学会賞
 機械電子創成工学科の平塚健一教授=写真=が2016年に発表した研究論文「フェノール樹脂複合材の摩耗特性に対する雰囲気効果(大気中水分効果の検証と摩擦分解ガス効果の提唱)」について、日本機械学会は2018年度の日本機械学会賞(論文)に選定し、4月18日、東京・元赤坂の明治記念館で開いた年次総会で賞状とメダルを贈った。
 摩擦材の中でもブレーキは自動車の安全にとって最も大事な部品で、季節や天候によらず摩擦係数や耐摩耗性が安定していることが必要。そのためブレーキパッドには多くの材料が添加されているが、添加材の作用機構に不明な点が多かった。
 研究対象のフェノール樹脂複合材はブレーキパッドのモデル材で、平塚教授らは添加材料や湿度などの摩擦条件を系統的に調べ、その摩耗機構の本質に迫った。
 実験の結果、大気中の水分が材料表面に物理吸着層として存在し、それが摩擦界面の凝着力を低下させ高湿度下での低摩耗をもたらしたことを明らかにした。さらに、黒鉛の添加によって低湿度でも低摩耗になる原因として、フェノール樹脂の分解ガスが黒鉛に吸着し凝着性を低減させたという結論を導いた。
 これまでの摩耗理論では、摩擦材である固体に対しそれを取り巻く雰囲気気体は一方的に作用するとされてきた。平塚教授らの研究はこれに加え、摩擦によって摩擦材が自ら雰囲気気体を作り出し、それが添加材に作用して摩耗にフィードバックされるという新しいメカニズムを示した。
 平塚教授は「(株)アドヴィックスとの共同研究が実を結びました。これまでに関係した学生諸君と喜びを分かち合いたいと思います。アラジンと魔法のランプではありませんが、固体をこするといろいろなことが生じます。摩擦・摩耗は身近な現象ですが、奥が深く、これからも多くの発見をしていきたいです」とコメントした。
 (株)アドヴィックス(本社・愛知県刈谷市)は主に車のブレーキシステム・構成部品を開発生産し、国内シェアの半分、海外でも1割余を占める有力企業。

3次元で環境認識、自律走行


原主任研究員らに優秀講演賞
 未来ロボット技術研究センター(fuRo)が取り組む「屋外3次元地形を走行する自律移動ロボットの開発」について、計測自動制御学会で講演した原祥尭主任研究員=写真=ら6人に、3月5日付で学会から優秀講演賞が贈られた。
 6人はチームの責任者を務める原主任研究員と西村健志研究員、入江清上席研究員、吉田智章主席研究員、大和秀彰主席研究員、友納正裕副所長(賞状記名順)。
 論文は、昨年12月13〜15日、大阪市北区の大阪工業大・梅田キャンパスで開かれた第19回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会で発表した。
 日常の市街地での自律移動ロボットの公開実験「つくばチャレンジ」で、fuRoは2017年、2次元システムを構築して完走。2018年には認識システムを3次元に発展させ、3次元SLAM(ロボットが取得したセンサデータから自己位置推定と地図構築を同時に行う)や3次元経路計画を統合。約2キロの公道コース完走を果たした。
 完走は、全75台中、わずか6台だった。
 原主任研究員は「研究発表を評価していただき、光栄です。今後も研究に励み、技術をさらに深化させることで、より高度な自律走行の発展に貢献していきたいです」と語った。
 つくばチャレンジは、つくば市などが主催、計測自動制御学会ほかが共催して、筑波研究学園都市エリアで毎年開催。コース途中には、探索人物の発見や、横断歩道の信号機を認識して渡る課題も含まれる。
 本学は未来ロボティクス学科の林原靖男研究室とfuRoが参加。課題達成=つくば市長賞=の常連校となっている。

活躍する校友


M&Aの中で泰然と
社会貢献できる体力を
京セラインダストリアルツールズ販売(株)社長
平田 博史(ひらた ひろふみ)さん(60歳)
(昭和57年、工業経営学科卒)
平田 博史さん
「考え方、熱意、能力の掛け算で」と平田さん
 M&A(企業の合併・買収)は多角化戦略である。ただでも波乱含みのこの渦中へ単身乗り込む苦労は想像に余りある。「まあ、これからです」。1年半ほど前、新社スタートとともにトップになった平田博史さんは泰然と構える。
 「京セラ、リョービの工具買収 世界で市場開拓」
 日経新聞1面に3段見出しのこんな記事が載ったのは2017年9月2日朝刊である。「ニュース知ってるか!」。双方の社員はびっくり仰天した。
 年が明けて1月。リョービの電動工具事業部門を切り離す格好で、京セラ80%出資の新会社(京セラインダストリアルツールズ、本社・広島県福山市)が発足し、副社長とその販売拠点(子会社)である京セラインダストリアルツールズ販売(本社・名古屋市)の社長をまかされた。
 「まさかと思いましたよ。京セラ時代は営業一筋、しかも商品は主に金属加工用切削工具。新社はプロ用とDIY(自分でやる人)向けの電動工具がメインですからね」
 小2から高校まで竹刀をふるった(剣道3段)。薩摩隼人だ。ふるさとは鹿児島県最北端、天草諸島のひとつ長島本島の東町(現・長島町)。いま対岸と橋で結ばれたが、そのころは離れ島。小中を過ごし、高校はツルの飛来で知られる出水市に下宿し、県立高へ通った。
 「卒業したら帰るので大学くらい関東で」。親を口説き、「なぜか入りたかった工業大学を」と本学の門をくぐった。
 質実剛健の風土で育った自称・貧乏学生は、バイトに励む一方、下宿代の支払いを伸ばしてもらうなど苦労している。それでも、卒業する4年の秋、友人らと能登旅行を楽しんだ。就職先に京セラを選んだ理由が面白い。
 1959年に従業員28人で産声をあげた京セラ(本社・京都市)の創業者、稲盛和夫氏は同じ薩摩人。そんなよしみもあったが、当時、滋賀県に1工場、鹿児島県に2工場をもっていた。「3分の2の確率でふるさとへ戻れる」。そう踏んだ。しかし甘かった。配属は機械工具の営業。
 ファインセラミックを使った半導体パッケージの開発・実装に成功した京セラは、セラミック材料をベースに自動車部品や人工膝関節、再結晶宝石などへ分野を広げていく。むろんセラミック製の切削工具開発も。
 「ユーザーさんには常にコストダウン、生産性の向上を求められます。長寿命を実現し、加工品質を上げられないか、と。刃具の変更や切削条件を見直し、生産工程からともに知恵を絞っていく。エンジニアの要素が強く、営業といえども構造系を知っている理系でないと大変でしょうね」
 と、平田さん。製造メーカーの集まる浜松、三河の営業所、そして本社機械工具営業本部が長い。36年目、その営業部長だった身に白羽の矢が立った。
 京セラは電動工具市場の世界的拡大を見込んで米国の工具会社を傘下におさめるなど事業を強化してきた。今回のM&Aもその一環だ。
 それから1年余。
 「社員の顔、商品を覚えるところから始めました。まだ把握しきれていません」と控えめだ。350人ほどいる社員は平田さんを除きみな元リョービ。「人生も仕事の結果も考え方、熱意、能力の掛け算というのが京セラフィロソフィ。この経験を生かして心のつながりを大切に、考え方を共有して社員全員で目標へ進んでいきたい」。
 平成30年7月豪雨では広島県、岡山県などに大きな被害が出た。地元から復旧工具の寄付要請もあった。「精いっぱい頑張ったが、十分ではなかった。しっかり社会貢献できる体力をつけないと」。
 そのためにも売り上げは重要だが、「電動工具は季節商品なんです。寒い冬は庭木をいじりませんから。課題は多いです」と話す。
 自宅は福山市。親会社の本社が4月、同じ広島県の府中市から移転してきた。しかし、名古屋市のこの本社のほか国内48営業所、親会社、ときに京セラ本体へも出向く。席の温まるいとまはそうない。佐伯泰英さんの時代小説のページをめくっているときが「唯一すべてを忘れられる時間」という。
 「えっ、ストレスですか? やはり、たまりますよね」――愚問であった。