未来へのアイデアを生かす「化学」の力
月の砂(レゴリス)を原料に酸素を生成するというエピソードについて調べてみたところ、このアイデアは、専門誌で真面目に議論されているテーマだとわかりました。レゴリスには酸化した金属(酸化物)と微量の水素が含まれています。とすれば、レゴリスを加熱して水素を取り出し、それによって酸化物を還元することで、水をつくることができます。その水を電気分解すれば酸素をつくることは可能です。レゴリスに存在する水素はわずかなので、効率やコストの問題は精査する必要がありますが、そうした問題をクリアできれば、月での長期にわたる生活が、かなり現実味を帯びてきます。とても夢のある話だと思います。月に関係するプランでは、私の専門分野でもある太陽電池による発電も構想されています。月面では太陽電池の発電効率が高いため、電気を電磁波で地球に送電すれば地球のエネルギー問題は大きく好転するはずです。こうした未来像を実現するうえで、いつも鍵を握っているのが、実は「化学」の力なのです。
化学は持続可能な社会に
大切な役割を果たします
今後取り組みたい研究領域
ナノバブルの原理と応用の研究
ナノバブルの性質に関心があり、化学の分野の研究者とネットワークを結んで、原理と応用範囲を解明したいと思っています。ナノバブルとは直径1万分の1ミリ以下の微細な気泡のことで、さまざまな気体を水中に溶け込ませることで、作物の生育を促進したり、水質を浄化したり、抗生剤を使わずに魚を養殖できるなど、さまざまなメリットがあるとされているものです。各研究者が、得意分野からアプローチして、可能性を探りながら、世の中の役に立つ成果を出したいと思っています。
谷津干潟の環境整備
本学の習志野キャンパスにもほど近い「谷津干潟」を豊かな生物多様性を持つ環境に再生したいと思っています。谷津干潟は、いまアオサの異常発生と枯死によって硫化水素が発生し、ゴカイや貝類、ヤドカリなどが死滅して、それを餌とする野鳥も減少しています。市民カレッジに参加する地元の方の熱意に刺激を受けながら、発生した硫化水素を化学の力で分解したり、アオサの発生を抑えたりすることで環境を改善し、野鳥にとっても地域の方々にとっても憩の場になるようにしたいと考えています。