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SDGsの取り組み

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柑橘種子で命をつなぐ輪を作ろう!



教育センター 化学教室
南澤 麿優覽 准教授

取り組み事例

原種の柑橘種子には、生きる力が詰まっています

アーユルヴェーダ発祥の地、南インドのケララ州で薬草探しをしていたころ、数人のお坊さんが荒地に古い種類のレモンの木を植え、貧しくて学校に通えない子供たちが進学する資金の援助をしているのを知りました。はじめてみる丸い小さな堅いレモンは、民間薬に重宝されるのだそうです。

レモンのような柑橘類の起源は、中国南西部の雲南省、ミャンマー、ヒマラヤ山脈の丘陵地帯にあるインド北東部あたりのアッサム地域であると推定されています。ここから、東南アジア、オセアニアに拡散し多様な進化と家畜化を遂げて現在では世界中で約1000種類にも達しています。今日の遺伝解析から柑橘類の源流にブンタン、タチバナ、柚子が位置していることがわかってきました。

柑橘類には、リモノイドと呼ばれる苦みのある成分が特有に代謝され(図1)食品に不向きなため、品種改良が進み原種の個体数は激減しています。強い苦みのあるリモノイドは、抗ウイルス、抗細菌、抗腫瘍、抗マラリア等の作用があります。強い苦みは、地球と共に長い年月を経て進化してきた柑橘が生き残るために獲得した尊い能力なのです。

世界中に散らばった柑橘類の持つ力を、病気の予防と治療に役立てたいと思いました。

増えている認知症、柚子種子リモノイドで予防したい!

世界は、教育の向上で成人病の発症が改善され始めていますが、高齢化による認知症総患者数は世界で約 5000万人、日本では 700万人以上そのうち約 500万人が治療法のないアルツハイマー病(AD)を発症しているとされています。さらに座っていることの多いライフスタイルが急速に増加しており、若者でも肥満や糖尿病がうつ病や認知症へのリスク因子になりつつあり病気の予防は緊急で重要な課題です。

我々千葉工大の研究チームは、日本には、原種の柚子が現存していることを見出しました(図2)。柚子種子リモノイドの特性を生かし、腸から脳の病気を予防しようと考えたのです。これまでに、脳の病気を発症するモデルマウスに原種の柚子種子から抽出したリモノイドを投与し、横浜市立大学、インド・アミティ大学との共同研究で治療法のない確実に死に至るサンドホフ病の病態を抑制し、2021年12月には千葉工大の研究チームでADの抑制にもリモノイドが効果的であることを発見してスイス・バーゼルから世界に発信されました。苦くて嫌われていた柑橘リモノイドが、治療法のない神経変性疾患を抑制する可能性を見出したのです。

柑橘種子を保護して持続的に活用・維持するための取り組み

世界中の柑橘の消費量は莫大で、果汁搾汁後の種子を含む残渣は廃棄物として大量に処分されています。残渣は、適切な科学技術を適用すれば、新規の価値あるものに生まれ変われます。
同時に大事なのは、地球の営みで進化してきた植物種子の特性を壊すことなく、貧困や飢餓に苦しむ人々に雇用を提供し、格差をなくすための教育に直結する持続可能な経済成長を促進し、健康で生産的で働きがいのある人間らしい仕事に就くきっかけのシステムを構築する技術の開発です。

システムづくりを学ぶために、インドの「緑の革命」の父と呼ばれ、女性や子供、そして持続可能な自然のシステムを支持・実現するスワミナサン研究財団を設立したスワミナサン博士に師事する機会を得ました(図3)。

最初に取り組んだのが、ヨーロッパの農地で過剰に蓄積する硝酸性窒素と、鉱山から流れ出る重金属で汚染された水源の安価な浄化システムの提案でした。果汁搾汁後の柑橘繊維に含まれるぺクチンを吸着活性点にする技術の開発です。インドの土木工学学会で取り上げられSynergic Solutions for Sustainable Development:Prescription for Prosperity(持続可能な開発のための相乗的解決策。繁栄のための処方箋)の本中で、「水と排水の処理と再利用」の章に掲載出版され、その後イギリス、アメリカの学術雑誌に研究成果が発表されました(図4)。
そして、2021年にイギリスとクロアチアから出版されたCitrusに柚子の生理活性についての総説を発表し(図4)、原種の柑橘種子の驚く能力を公開したのです。
尚、本年10月に日本で開催されるエコメッセでは、パートナーシップで目的を達成するためのつながりを見出す活動を学生と共に実施する予定です(図5)。

図1 代表的な柑橘リモノイド

図2 日本の原種の柚子(京都水尾)

図3 スワミナサン研究財団(インドチェンナイ)
左から二人目がスワミナサン博士

ISBN81-903170-0-8

M.Minamisawa et al.,
J. Agric. Food Chem.52(18), 5606-5611,2004.
Green Chem. 7(8),pp.595-601, 2005.

図4 柑橘残渣からつくられた環境浄化剤と柚子種子の生理活性能に関する書物

図5 南澤研みんなでエコメッセに向けて準備中です!