千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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(1)解が一意に決まらず,多様な結論があり得る合意形成課題を用意する. (2)実験協力者にエニアグラム性格診断を実施し,同質型および補完型のグループを編成する. (3)課題実施時の発話を動画にて撮影し,発話カテゴリと回数を計測する. (4)発話カテゴリの分析にあたっては,思考領域別の発言ワードをもとに計測する. (5)リーダの性格特性別にリーダ自身およびメンバの発話の特徴を分析する. リーダの性格特性を説明変数,発話スコアを従属変数として多重比較を行った.表1はタイプ1(改革者タイプのリーダ)のときの物理領域に関する発話数である. 物理的領域についてタイプ1はタイプ2,6,4,9より有意に発話数が多かった.このことからタイプ1は積極的に発話しながら,会議を進めていたことが分かる. 表1 物理的領域の発話(タイプ1) 表2はゼロ発話者数の多重比較である.表2より,タイプ1がリーダの時に発言の無いメンバが有意に増える傾向が明らかになった. 表2 ゼロ発話者数の比較 表3は,タイプ2を説明変数とした物理的領域に関する多重比較である.タイプ2(献身者)は,自身の意見領域の発言についてタイプ1, 4, 5 7, 8との比較において有意差があった.これは,献身者的性格であり追従的であるタイプ2の発言自体が少なかったことによると考えられる.このタイプでは,自身が積極的に課題に関わる姿勢を養うことが必要であると考える. 同様の分析により,タイプ5(研究者)のリーダは物理領域,機能領域,文化領域の3つからなる意見領域総数の発話がタイプ2のリーダに比べ有意に高かった(p<0.01).ここから研究者型のリーダは献身家のリーダに比べ,自身が課題自身について考え,発話する傾向があると考えられる.また他者への影響が少ないと考えられた.よってタイプ5のリーダは自身の思考だけに偏らず,他者への発話を増やす必要があると考えられる. 表3 物理的領域の発話(タイプ2) タイプ6(堅実家)では,ゼロ発話者においてタイプ5,7,8のリーダに比べ有意に低い(p<0.05)傾向が明らかになった.ここから,堅実家のリーダは研究者,楽天家,挑戦者のリーダに比べてメンバへの配慮が欠ける傾向にある. タイプ7(楽天家)では,思考に時間を要する機能領域に関する発話がタイプ1,5,6,8,9のリーダに比べ有意に低い(p<0.05)傾向が明らかになった.上記5つのタイプのリーダより機能思考を避ける傾向にあり,楽観的思考を持っていると考えられる.課題によっては,本質的問題を避けることにつながるため,チームとしての明確にし,実行することが必要と考えられる. タイプ8(挑戦者)では,チーム全体の文化領域の発話がタイプ9のリーダに比べ有意に低い(p<0.01)傾向が明らかになった.挑戦者のリーダは,調停者のリーダに比べチーム全体の発話が少ない.よってタイプ8のリーダは全体の発話を上昇させるためにメンバへの配慮が必要だと考えられる. タイプ9(調停者)では,自身の意見領域総数がタイプ8のリーダに比べ有意に低い(p<0.01)傾向が明らかになった.ここから調停者のリーダは挑戦者のリーダに比べ自分自身の意見を出すことが少ないと考えられる.よって,タイプ9のリーダは集団意思決定に先立ち自身の思考領域の活性化が必要であると考えられる. 5.結論 本研究により,ファシリテータの性格特性により集団意思決定時の発話傾向に違いがあることが明らかになった.また性格特性別の傾向を分析することにより,集団意思決定において留意すべき点をリーダの性格特性という観点から考察した.これは,国際的PBLではファシリテータの機能が不十分であると教育効果が不十分なままワークショップが進行してしまうことが懸念される.本研究により,状況に応じたファシリテータの行動特性が明らかになった.今後,国際的なPBLを実施するにあたっては,こくした特性を考慮したアイスブレークやファシリテーションツールの利用が必要であると考えられる. 参考文献 1) 森本千佳子:プロジェクト成功のためのコミュニケーションファシリテータ活用,プロジェクトマネジメント学会誌,Vol.4,No.4,pp.23-28,2012. 2) 高塚有希子, 高野研一: ITプロジェクトにおける意思決定プロセス,経営行動科学, Vol.22, No.3, pp.233-234, 2009. 842015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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