千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
82/168

る製品の機能から学習を行う. ③ある一定割合で生産している機能に突然変異を与える. )3()(Mutation)(111tptptptpttptpttpfaMfafaLfarlsfafarlsfa ここで,sはt期の当該生産者の在庫量であり,rlは生産上限に対する一定割合を示し,Lは他者からの学習行動を示す.Mutationは在庫状況とは無関係に一定の確率で発生し,Mは製品機能に対する認知への突然変異行動を示す. (2)シミュレーション実験 ①ABMモデル概要 モデルは新規需要創造の基礎モデルとして,複数の生産者,複数の消費者の2種類のエージェント,及び財の売買を行う市場によって構成される.また,各エージェントが以下に示す1連のステップをモデル内の1単位期間とする.製品価格,及び生産者の生産上限は一定の値とし,消費者は毎期所与の所得を得る市場内の資金が非循環型のモデルである.以下に1期間の行動ステップを示す. I. 各生産者は自身が保有する需要に対する機能欲求の認知に応じて生産能力を超えない範囲で生産を行う. II. 各消費者は自身の欲求に応じて,可処分所得の範囲内で効用が最も高くなる製品の組み合わせの製品を購入する. III. 生産者は販売状況から,自らの機能欲求の認知を学習し,翌期に生産する製品の機能を定める. IV. 消費者は自身の機能欲求に対して,購入した製品によって満たされた充足率を判断し,一定水準に達していれば新しい欲求を探知する. ②実験条件 シミュレーションは消費者の数を200,所得を1000,生産者の数を50,製品価格を100,生産能力上限を50で行った.また,製品に対する機能faを0~1000の値とし,各生産者の製品機能に対する認知の初期値は乱数で与えた.消費者の機能欲求dについては初期値で250と750の値を与え,製品欲求に対して購入した製品の機能の充足率が一定割合を超えると新しく500の欲求を認知するとした. ③実験結果 シミュレーションの結果,図1に示すように生産者の学習による市場への適応から新しい欲求の認知に対応して新製品の需要が定着する過程を再現することができた. 各生産者の生産する製品機能値は,t=1の時点で各値域に均等に分布しているが,t=300頃までに学習の結果,250と750の周囲に分布が変化している.このとき,図2に示すように消費者はt=300頃から新しい欲求を認知し始める.これは生産者が市場の需要に適応して製品を生産し,市場の需要が一時的に満たされていることを示している.さらに時間経過によって,t=1000頃には全ての消費者が新しい製品に対する欲求を認識していることがわかる.その結果,図1に示すようにt=1000頃には機能値が500前後の製品が市場に定着し始め,t=1700頃には完全に市場で需要が存在する製品として定着していることがわかる. 図1.各生産者エージェントが生産する製品機能値の分布 図2.新しい欲求を認知している消費者数推移 また,今回のシミュレーションにあたり,エージェントの行動をモデル構造の構成条件として,一つ一つの行動をシミュレーション条件として確認した結果,新規需要の創造を創発する為のモデル構造として以下の要素が必要であることがわかった. ・生産者が他のエージェントの製品機能を学習する ・生産者が順境な時には学習をしない ・学習において突然変異の因子を内包すること ・消費者が自己の欲求に満足したら新しい欲求を探索する 3.今後の課題 本研究では,新製品の創発,需要の創造・定着の一連の流れについて,消費者側の需要認知の創発を外生的に与えることによって再現し,基礎モデルを構築することができた.今後の課題として,生産者の製品開発,及び消費者側の需要認知を遺伝的アルゴリズムによって既知情報から自己,他者,環境との相互学習を通じて創発させることによって内生的に新規需要を創造することが挙げられる.さらにマクロ経済モデルに新規需要創造モデルを内包し,新製品の開発,生産設備の設置に関わる費用を借入・投資によって行うことで需要内の資金流通を創造し,雇用が創発される業界の創発を再現することができると考えられる.また,これらの創発現象について,市場内の資金流通量,雇用の創出などについて実システムのスタイライズドファクトとの比較によって妥当性の検証を行っていく. 4.参考文献 1.小野修一郎ら. 科学技術分野の創造性に関する事例研究. 日本経営システム学会誌 vol.25, No.2 ,2009. 2.田中洋. 消費者行動体系論. 中央経済社, 2008. 5.関連発表 Ⅰ.経営情報学会2014年秋季全国大会,及びWCSS2014(5th World Congress on Social Simulation ) 702015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です