千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2014/8/4 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): ABM人工経済モデルにおける新規需要の内生的創発モデルの研究 研究者: 高島 幸成 千葉工業大学 TAKASHIMA Kosei 附属研究所 共同研究員 1.はじめに Agent-Based Modeling(ABM)は社会科学におけるメカニズム解明,問題解決アプローチに対して有効な手法の一つであり,中でも経済モデルの構築とメカニズムの解明は多くの社会行動で経済的な動機が意思決定要因となるため,重要な領域の一つである. ABMマクロ経済モデルの構築においては,重要な要因の一つとして経済成長が挙げられる.一般的に経済成長の要因はイノベーションによる新製品の登場,生産性の効率化等の要因があるとされており,多くのABM研究では技術革新による生産性の向上を内包している.しかしながら,技術革新による生産効率の向上は,財が生産されただけ消費されることを前提としており,資本の蓄積による需要飽和を考慮すると長期的な経済成長を実現するためには人口増加等の外生的な要因を必要とする.一方,需要創造は,新製品の登場とそれが市場に受容され需要が定着する過程をモデル化することによって内生的な要因によって経済成長を実現することが可能であり,ABMによる経済モデルと親和すると考えられる. 一方,ABMによる経済研究において,現実のシステムがモデルに対して定性的に妥当である時,モデル構造とメカニズム,及び創発されるマクロ現象は1対1の関係が成り立つと考えられ,それらはコントロールされた計算機実験により明らかにでき,またその過程でマクロ現象に関わるメカニズムに関する知見が得られると考えられる[Ⅰ]. そこで本研究はマクロ経済モデルに適用することが可能な新規需要創発のモデルを構築することを目的に,新製品の創発,需要の創造,定着の一連の過程を再現することの可能な基礎モデルの構築とモデル構造の条件明確化を目的にシステムの要素を実験条件としてシミュレーション解析を行った. 2.研究内容 (1)新規需要創造モデル 本研究における新規需要の創造とは,テレビの登場と普及,或いはPCの登場と普及のように,市場に存在しなかった効用を伴う財の登場によって,当該効用を伴う財の需要が市場において定常的に定着し,最終的に単独の業界として存続するようなマクロな観点での過程を指す. 企業が新製品を創造する過程は小野らによれば既知情報の組み合わせからきっかけによって新情報が創造されるとあり[1],ABMにおいて既知情報の組み合わせによる新情報の生成は学習の過程によって表現することが可能であると考えられる. 一方,消費者は自分が置かれた社会・文化・経済的な環境に応じて必要になるものが異なる[2]ために,消費者が新製品の機能に対する欲求を認識しなければその製品を購入することはできない.従って,消費者の欲求は今現在,認識している欲求が充足されたときに新しい欲求を認知できると考えられる.これは市場に参加する需要側の機能欲求がある程度満たされると,新しい機能欲求が需要として発生すると個人規模から市場規模に拡大することができる. そこで本研究は消費者と生産者に以下の学習と行動を仮定し新規需要創造過程のモデル化を試みた. 各消費者は財を消費する際に得られる機能に対する欲求dを複数所有する.さらに消費者の効用uは式(1)に示すように自らの欲求diと購入することを決めた生産者pの製品の機能fa,及び欲求dを満たすことを目的として購入したt期の製品個数btによって定まる. )1(1itipibfadu このとき,(1)のαは0<α<1であり,特定の効用を満たす目的で製品を購入するほど,欲求に対する製品一つ当たりの効用は低下する.消費者は自らの可処分所得Eの範囲内で最も効用が高くなる組合せの製品を購入するように行動する(2).ここでpは購入した製品価格を示す. )2(..maxittitEbptsu また,消費者は毎期,自らの欲求dと購入することができた製品の機能faとの乖離を確認し,欲求が一定レベル満たされると新しい効用を探索する. 一方,各生産者は市場において需要側が欲求している機能の認知を保有し,その認知に基づいて製品を生産する.生産者は自身の製品販売状況と他者の製品販売状況から,以下に示すように市場で受け入れられる製品機能の状況を学習し,製品の機能を進化させる. ①自身の製品在庫が生産能力の一定割合を下回っている場合に自身が生産する製品の機能は市場の需要に適応していると認識して同一機能の製品の生産を続ける. ②自身の在庫が生産能力の一定割合を上回っている場合に市場の需要に適応していないと認識して,市場で売れてい692015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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