千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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図1 窒素含有量と希硫酸中の電位窓の関係 これまでの報告で、カーボン電極の構造が変化すると、電位窓や特定の電気化学種に対する電気化学反応が変化することが知られている。2) そこで、本報告でも、成膜したN-UBM膜の電位窓や特定の電気化学種に対する反応について検討を行った。図1にN-UBM膜中の窒素含有量と希硫酸中(0.05 M)の電位窓の関係を示す。電位窓は電流値が±500 A/cm2を超えない範囲として定義した。窒素を含有していないカーボン膜の電位窓は3.9 Vであるのに対し、カーボン膜中に窒素が含有されると電位窓は4.1 Vとわずかに増加した。しかし、窒素含有量が増加しても、電位窓に大きな変化は見られなかった。カーボン系電極の電位窓は結合状態と大きな関係があり、化学的に安定なsp3結合を多く含むボロンドープダイヤモンド電極などのカーボン材料の電位窓が非常に広いことが知られている。本報告のN-UBM膜でもわずかにsp3結合が増加しており、このことが電位窓の増加に寄与したと考えられる。 次に、カーボン材料の電気化学反応を比較する場合に非常に良く用いられるRu(NH3)63+とFe(CN)64-への反応について検討した。図2に窒素含有量と2種類の電気化学種のピークセパレーション(Ep)の関係を示す。Ru(NH3)63+のEpは窒素含有濃度に依存せずおよそ65 mV程度であった。このことから、電極のIRドロップの影響は無いことが明らかとなった。しかし、Fe(CN)64-のEpは窒素を含有していないカーボン電極では、146 mVであったが、窒素を含有するとおよそ85 mV程度まで減少した。Epが減少することは、その電気化学種に対する電極活性が向上していることを意味する。このことから、カーボン膜中に窒素を含有することによって電極活性が向上することが示唆された。 図2 窒素含有量と各種電気化学種のEpの関係 図3 各種窒素濃度のN-UBM膜のORR活性 これまでに、数多くの研究グループがカーボン材料に窒素をドープすることによって、ORR電位が正側にシフトすることを報告している。そこで、本報告で成膜したN-UBM膜についても、ORR活性について検討を行った。図3に各種窒素含有濃度のN-UBM膜のORR活性評価の結果を示す。窒素を含有していないカーボン膜では、ピーク電位が-0.75 V程度であるが、窒素含有濃度の増加に伴いピーク電位が正側にシフトし、窒素含有量が10.9 at.%の場合、-0.48 V まで、電位が正側にシフトする結果となった。N-UBM膜の場合、窒素をカーボン膜にドープすることによって接触角や表面粗さは大きな変化をせず、結合状態のみが変化している。このことから、ORR活性にはカーボンの結合状態、もしくは、カーボンと窒素の結合状態が大きく影響していることが示唆された。これまでに我々は、窒素をドープしたカーボン電極の電気化学特性は窒素濃度が9 at.%程度で最も電極活性が向上することを報告してきた。2) 本報告でも窒素濃度が10 at.%程度の試料が最もORR活性が向上している。これらのことから、ORR活性には適度な窒素濃度と結合状態が存在することが明らかとなった。 3.まとめ 本報告では、非金属カーボン触媒材料のORR活性メカニズムの解明を目的として、極低濃度の窒素ドープカーボン電極を成膜し、その電極構造と電極活性について検討した。UBMスパッタ法を用いて成膜したN-UBM膜は窒素含有量の増加に伴い、結合状態は変化したが、表面酸素濃度、親疎水性や表面粗さに大きな変化は見られなかった。一方、電極特性は大きく変化した。窒素をドープすることによって電位窓は増加し、特定の電気化学種に対する電極活性は向上した。さらに、適度な窒素濃度でORR活性は飛躍的に向上した。 本研究に関する主な発表論文 (1) Tomoyuki KAMATA, Dai KATO, Shigeru UMEMURA and Osamu NIWA, Structure and Electroanalytical Application of Nitrogen-doped Carbon Thin Film Electrode with Lowe Nitrogen Concentration, ANALYTICAL SCIENCES, 2015, Vol. 31, (accepted) 参考文献 (1) Zhi Yang et.al : J. Power Sources 236 (2013) 238. (2) Tomoyuki Kamata et.al : Anal. Chem. 85 (2013) 9845. 2015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    68

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