千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
77/168

研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): 骨格筋冷却による筋有酸素代謝制限下で行う運動トレーニング手法の開発 ―低酸素トレーニングとの類似性が見られるか?― 研究課題名(英文): New concept exercise training with limitation of metabolism in hypothermic skeletal muscle -Similarities between hypothermic and hypoxic training- 研究者: ○若林 斉 千葉工業大学 WAKABAYASHI Hitoshi 工学部 教育センター 准教授 1. はじめに 本研究は,骨格筋冷却による筋代謝制限下で行う運動トレーニング手法の開発を目的とする.本手法は障害予防や暑熱負担軽減で用いられるアイシングやクーリングとは全く異なり,筋温を平常温以下まで低下させることにより,酵素活性や筋代謝を制限し,その状態で運動トレーニングを行うことで,解糖系代謝や速筋線維の動員を高める方法である.本手法によりトレーニング効果が高まれば,運動トレーニング単独に比べて,筋パフォーマンスをより向上させると考えられる.一方で,冷却の繰返しに伴う適応現象として,筋有酸素代謝の亢進も考えられ,本トレーニング手法の実施によりどのような生理的変化が生じるか明確でない.本研究では,骨格筋冷却下での運動トレーニング前後における,運動パフォーマンスおよび筋酸素動態と筋活動電位を測定し,トレーニング効果と生理的メカニズムを検証する. 2.研究の内容 1)寒冷環境における筋活動の文献レヴュー 実験計画および測定評価項目を検討するために,寒冷環境における生体反応とその適応性に関する先行研究をレヴューし,総説を執筆した(Wakabayashi et al. 2015).本総説は,フィンランドOulu大学のOksa教授と,英国Portsmouth大学のTipton教授との国際共同執筆で,両グループの研究成果を多く引用している.Oksa教授の研究グループは,寒冷環境での筋パフォーマンスおよび筋活動を筋電図学的手法により検討した多くの研究報告があり,なかでも,主働筋の活動低下と同時に拮抗筋の活動亢進によって動作の阻害が生じることを報告した研究は興味深い.Tipton教授のグループでは,寒冷水浸時の泳パフォーマンス低下とエネルギー消費量の増加について示した実践的な知見に加えて,寒冷適応に伴う体温調節反応の順化に関する多くの研究を行っている.寒冷環境における運動パフォーマンス低下に関する両グループの研究成果およびさらに基礎的な筋生理学的知見に加えて,本総説では,寒冷適応が運動パフォーマンスに及ぼす影響とそのメカニズムについて,限られた先行研究に基づいて論じた.震え反応の順化や寒冷血管拡張反応の亢進による巧緻性を中心とした運動パフォーマンスの向上の可能性を示した研究はわずかに見られるが,本研究で検証しようとしている筋冷却による運動トレーニング効果の向上に関する先行研究は皆無であり,本研究を行う意義の高さが再認識された. 2)予備実験による実験条件および測定評価方法の吟味 骨格筋冷却を行った際の筋代謝状態および筋活動を評価するための予備実験を行った.予備実験の目的として,筋酸素代謝動態および筋電図の同時評価,筋電図による筋線維動員状況の評価手法構築,運動強度の設定,目標冷却組織温度の設定などを吟味した. 成人男性3名を対象に予備実験を行った.実験は,千葉工業大学新習志野キャンパス体育実験室に設置された人工環境制御室(富士医科産業製,気温24℃,湿度40%RH,酸素濃度20.9%)で実施した(図1).まず,前腕部を冷却していない状態で,等尺性掌握運動の最大発揮筋力(MVC)とその間の指屈筋および尺側手根屈筋の表面筋電図の測定を行った.その後,被験者によって,20~50 %MVCの運動強度を設定し,最大下等尺性掌握運動を20秒間行い,その間の指屈筋酸素動態および指屈筋と尺側手根屈筋の表面筋電図の測定を行った.筋酸素動態の測定には,近赤外線分光式レーザー組織血液酸素モニター(BOM-L1TRW,オメガウェーブ)を使用した.筋電図の測定には,アクティブ電極(DL-141,S&ME)を使用し,アナログ信号出力箱(DL-720,S&ME)とAD変換器(Powerlab PL3516/P,ADInstruments)を介してパソコンにデータを取り込んだ.冷却前の測定終了後,前腕部および上腕部を水循環式冷却システムにより前腕部組織温度が27℃に達するまで冷却した.組織温度は,熱流補償法による深部組織温度計(CM-210,テルモ)により非侵襲的に測定した.組織温度が2℃低下する毎に(33,31,29,27℃),20秒間の最大下等尺性掌握運動を行い,その間の筋酸素動態および筋電図の測定を繰り返した. 652015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です