千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): 水中環境でのフィードバックツールの開発に向けた日常生活動作の動作・筋活動研究 研究者: ○金田 晃一 千葉工業大学 KANEDA Koichi 工学部 教育センター 助教 1. はじめに 日常生活動作 (Activity of Daily Living: ADL) は,特に後期高齢期において自立した生活を送り高い QOL (Quality of Life: 生活の質) を獲得する上で重要な要素の一つである.なかでも歩行を始めとする起居・移乗移動動作は QOL や ADLひいては介助量にも大きく影響すると言われており,高齢期における起居・移乗移動動作能力の維持・改善を図ることが重要視されている1). 水のもつ物理的特性を生かした水中環境での運動は,特に浮力や粘性抵抗が人体に与える影響のために,陸上では困難な運動を容易に達成することができると言われている.Sato ら (2007)2) は,要支援・要介護認定者に対する ADL の水中環境でのトレーニングによって,ADL 項目の改善を報告している.ここでは,歩行を始め,椅子の立ち上がり動作や段差昇降動作,臥位姿勢からの起き上がり動作を主に実施している. このように,水の特性を生かした水中環境での起居・移乗移動動作に関する効果は上がっているものの,実際にそれらの動作を行っている際の動作・筋活動の様子を調査した研究はほとんどなく,特に陸上での同動作と比較してどのような違いがあり,水中環境での動作ではどのような特徴・利点があるのかは明確ではない.これまでの先行研究では水中環境での歩行に関する動作・筋活動研究は多く見られ3,4),その特徴が明らかにされてきているが,その他の起居・移乗移動動作についての報告は皆無に等しい. そこで本研究では,科研費において水中環境での日常生活動作の動作・筋活動を調査することを想定し,すでに過去に取得した水中環境での椅子の立ち上がり動作について 2 次元動作分析を行い,科研費採択後の参考資料として活用することを目的として行った. 2. 研究の準備 本研究を行うにあたり,本助成金では,まず,すでに取得している映像解析を行うために専用の PC を購入し,ソフトウェアをインストールし,これを用いて分析を行った.また,科研費取得後に使用する台座を購入し,主に立ち上がり動作と段差昇降動作を行うことができる環境の一部を整えた. 3. 2 次元動作解析 水中環境では水深は 85cm であり,高さ 40cm の椅子を想定した台を用いて立ち上がり動作を行った.陸上環境では高さ 40cm の台を椅子と見立てて立ち上がり動作を行った.それぞれの環境にて立ち上がり動作を行った際の映像を分析した.映像は 25Hz で収録された.今回,分析対象となったのは健常な若年男性 8 名であった.各対象者には第五中足骨骨頭,外踝,大腿骨外側顆,大転子,腸骨上縁にマーキングがされており,手作業によるデジタイジング作業によって各マーカーにおける座位姿勢から立ち上がり終了までの動作時の 2 次元方向 (矢状面方向) の座標値を取得した.取得した座標値は,3Hz のローパスフィルタをかけノイズを取り除き,動作開始から終了までの各関節 (足関節,膝関節,股関節) それぞれにおける関節角度の時間変化を算出した. 4. 分析結果 本研究では特に,科研費獲得後にどの部分の筋活動を取得するべきかを検討するために,算出した関節角度の時間変化は水中環境,陸上環境ともに同一の図に表した (図1). 図より,足関節に関しては陸上環境,水中環境ともにほぼ同様の角度変化の呈する傾向が見られた.膝関節に関しては,水中環境が陸上環境と比較してやや遅れて伸展が開始される傾向を示し,立ち上がり動作後半では陸上環境と比べてやや屈曲位にある傾向が見られた.股関節に関しては,立ち上がり動作中盤の屈曲局面が水中環境でやや陸上環境と比較して遅く,立ち上がり動作後半では水中環境が陸上環境と比較してやや屈曲位にある傾向が見て取れた. 5. 考察 本研究の結果,水中環境での立ち上がり動作では,特に下肢関節に関して,主に違いが見られたのは膝関節と股関節あることが明らかとなった.また,両関節とも基本的には水中環境が陸上環境と比較してやや屈曲位にあることが伺えた.これらのことから,水中環境での立ち上がり動作は陸上環境でのそれと全く同じではないことが明らかとなり,特に膝関節と股関節において違いが見られることが考えられた.従って,科研費獲得後の研究においては,筋活動を測定する際,下肢においては特に膝関節の屈曲伸展動作に関わる筋,股関節の屈曲伸展動作に関わる筋について調査をしていくことが有益な示唆を得ることにつながる可能性が考えられた.具体的には,大腿直筋,内側・外側広筋,大腿二頭筋,大臀筋などである.しかしながら,本研究では側面からの 2 次元による動作分析のみ行っているため,左右方向の動作変化については不明である.従って, 632015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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