千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): 新規アーキテクチャ分析法を用いたリチウムイオン電池産業のものづくり国際経営戦略 - リチウムイオン電池産業の組織能力と産業地理学 - 研究課題名(英文): Global Strategy of Manufacturing Management in Lithium Ion Battery Industries using New Architecture Analysis Method - Organizational Ability and Industrial Geography of Lithium Ion Batteries - 研究者: ○久保 裕史 千葉工業大学 KUBO Hiroshi 社会システム科学部 プロジェクトマネジメント学科 教授 山﨑 信雄 千葉工業大学 YAMAZAKI Nobuo マネジメント工学専攻 博士後期課程 1.はじめに リチウムイオン電池(Lithium Ion Battery : LIB)は,日本が世界に先駆けて実用化し,技術的にも市場的にもリードしてきた製品である.その用途は,これまでの民生用に加え,車載用や定置用にも大きく広がりつつある.しかし,最近,韓国や中国メーカーのシェアが急拡大し,民生用では既に,逆転されている[1].このような事例は,他にも数多くのエレクトロニクス製品で見受けられる. その原因究明と経営戦略立案に,① 製品・工程アーキテクチャ,② 組織能力,③ 産業地理学 の3つの視座から分析し,これらを総合的に分析する手法が有効である[2].しかし,LIBでは,EV用の製品アーキテクチャに一部言及した文献[3]が認められる程度で,これらは殆ど解明されていない. そこで我々は,これら3つの鍵概念に基づく分析を行い,今後,日本のLIB企業が目指すべき戦略の提案を目的として,本研究を実施した.上記①の分析結果の詳細については,H25年度の本誌で報告済みである.本報告では主に,韓国・中国のLIB企業に関する上記②と③の分析結果と,今後急成長が予想される車載用LIB分野で日本企業が目指すべき戦略を示す. 2.LIBの製品・工程アーキテクチャ LIBの基本構造は,図1に示すとおりである.筐体には,円筒型,角型,ラミネート型の3種があり,用途に応じて使い分けられる.一方,LIBの製造工程はほぼ自動化され,電池メーカー自身が開発・設計した仕様・設計図に基づき,外注もしくは内作される. LIB の製品アーキテクチャはインテグラル型に留まるものの,工程アーキテクチャはモジュラー型であり,両方のアーキテクチャを同時に見れば,必ずしも日本企業と相性の良いとされるアーキテクチャではないことを明らかにした.1) (図2) 銅箔(集電体)負極材(円筒型)セパレータ正極材アルミ箔(集電体)電解液(この間に満たされる)図1 リチウムイオン電池セルの構造(円筒型) 3.LIB産業における組織能力と産業地理学 アーキテクチャ・ベースの戦略論に基づき,韓国・中国のLIB メーカーを成功へと導いた要因を分析した(表1).考察の結果,韓国・中国のLIB メーカーが採った戦略は,「アーキテクチャの両面戦略」であることを明らにした.即ち,苦手とするインテグラル型の製品アーキテクチャに適合する為の組織能力の獲得と,モジュラー型工程アーキテクチャと相性の良い組織能力及び能力構築の環境(産業地理学)の優位点を活用した製造戦略を,同時に進めたということである.2) 4.車載用LIBの戦略提案 以上の結果を元に,日本の車載用LIB 産業の戦略課題を明らかにし,二つの戦略を提案した.一つは,製品アーキテクチャをインテグラル型に留めたまま事業領域を拡大する戦略であり,他方は,製品アーキテクチャを「内インテグラル・外モジュラー」の位置取りに変え,部材の領域に特化する事業領域の集中化戦略である(図3).これら2 つの戦略の共通点は,「産業構造を自ら変えていく」ことである.3), 4) さらに,これらの戦略立案の過程を通して得られた,「統合アプローチ」の考え方を示した.5) 532015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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