千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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研究項目:科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): 為替レート・長期金利の自己調整機能を内包したエージェントベース人工経済社会モデル 研究課題名(英文): Agent-Based Model of Artificial Economic Systems Featuring Self-Adjusting Mechanism of Exchange Rate and Long-Term Interest Rate 研究者: ○荻林成章 千葉工業大学 OGIBAYASHI Shigeaki 社会システム科学部 経営情報科学科 教授 1.はじめに エージェントベースモデリング(ABM)は,コンピュータ上に人工社会を構築し,ボトムアップなマクロ現象の創発を再現する社会シミュレーション手法である.筆者らはABMによる経済システムモデリングの研究を進めており,これまでに,①価格均衡の再現,②景気循環の再現,③所得税及び法人税の減税乗数再現などを確認している(1)~(3).本モデルを更に拡張して,金利や為替レートを再現できるモデルを構築していくためには,ABMの妥当性を担保するための考え方や方法の確立が不可欠である. ABMのモデル妥当性に関しては,「ヤッコ-:やったらこうなる」といった類の批判が多く指摘されている.その代表的なものは,「ABMによる計算結果はパラメータ条件に大きく影響されるため,同一のマクロ現象が複数のモデルで再現される可能性は否定できず,したがって,ABMではマクロ現象再現のための十分条件は示せても必要条件は示せない」という批判4)である. しかしながら,著者らのこれまでの研究事例によれば,あるマクロ現象を再現するために必要不可欠なモデル構造が存在すると考えられることから,ABMの妥当性に関する上記の指摘は認識の誤りと思われる.しかしながら,従来の研究では,特定のマクロ現象を再現するためのモデル条件について解析した研究は殆ど見られない. そこで,本研究では,モデルの構造を,システム構造とその属性に分割し,システム構造とマクロ現象創発及びそのメカニズムの間には一対一の対応,すなわち一意性があることを実験的に確認し,その結果をシステム論的に考察し,実社会を模擬した定量的なモデルの開発手法を提案する.ここで,システム構造とは,問題とするマクロ現象に関わる意思決定主体の種類とその行動ルール及び彼らの活動する場の集合を表す.またその属性とは,これら意思決定主体及び活動場の状態変数の集合である. 2. 研究の内容 (1)シミュレーションモデル 本モデルは,経済システムにおける最も基本的要素として,消費者C,企業P,銀行B,政府Gの各種意思決定主体(エージェント)及び彼らが活動する場としての市場で 構成される.ここで消費者Cは,一般労働者,公務員労働者,経営者の3種で構成され,企業Pは消費者向け製品を製造販売するリテイラーR,Rに原料を供給する原料生産者W,RおよびWに設備を供給する設備製造者Eの3種で構成される.更に市場は,実物製品市場,株式市場,労働市場の3種で構成される.モデルの概要を図1に示す. 図1 エージェントベース人口経済社会モデルの概要 各エージェントは多様な行動ルールと状態変数を保有し, 自身の行動とその相互作用により価格等のマクロ経済変数が創発される.また各エージェントは毎期末に複式簿記による決算を行い,それらを集計して人工経済システムの産業連関表やGDPが計算される.各エージェントの主な行動ルールを表1に示す. 表1 各エージェントの行動ルール概要(1)~(3) 表1において政府エージェントの支出行動としては,市472015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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