千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): 社会的資源の配分を巡る譲り合い行動のメカニズムと利他的インタフェースの効果の検討 研究課題名(英文): The mechanism of give-and-take behaviors concerning the distribution of social resources and study on the effects of altruistic interface 研究者: 安藤 昌也 千葉工業大学 ANDO Masaya 工学部 デザイン科学科 教授 1. はじめに 昨今、人々の協力的な行動を前提とした社会的資源の最適化が課題となっている。例えば、東日本大震災以降に起こった電力消費量のピークカットのための節電協力や、新型インフルエンザなどパンデミックワクチンの優先接種の法制化などがある。本研究ではこれを“譲り合いの課題”と呼ぶ。またこの課題を解決すべく、現在得られるはずの自己の利益や権利を譲る行動を、人の利他的行動の一つと捉え“譲り合い行動”と呼ぶ。 人間が元々持っている公共性や利他性のメカニズムについては、社会心理学分野において研究がなされている。代表的例としてBatsonによる利他的動機付け理論がある[1]。従来の利他的行動研究は人間の心理的メカニズムの解明を目的としており、理論を実際の社会的課題に応用する目的の研究はほとんどない。 本研究の着想は、クラウド技術や通信サービスの発達により社会全体の状態がリアルタイムに視覚化できるようになり、相互の謝意までも容易に媒介できるようになれば、社会的状況判断が促進され個人の利他的行動が誘発される確率も高まるという仮説に基づいている。特に、有限な社会的資源の分配や取得順の決定などの状況で発生する、譲り合いの課題(個人の利己的な感情から生ずる不満の増大や秩序の混乱等)の解決・緩和に寄与できる可能性がある。 著者らはこれまでに、利他的行動の代表的行為である“やってあげる行為(援助行動)”に着目し、応用のための基礎的研究を行ってきた。これまでの成果として、以下の3点がある。① 利他的行為に対する心理量として“意欲”を測定可能にしたこと、② 援助者の状況の認識の違いによって援助行動の意欲が異なること、③ 実際の援助行動の頻度と意欲は相関していること。これらについて実験を通して明らかにしてきた(図1)[2]。 しかし、これらの成果はあくまで日常生活における状況を模擬した提示刺激によるものであり、情報機器のインタフェースでの視覚化による効果の検討まで至っていない。そこで、研究を進めるために、対象システムとして相互援助ネットコミュニティを取り上げる。相互援助ネットコミュニティの代表は、Q&Aサイトであり、ユーザー相互の助け合いによって成り立っているシステムである。 相互援助ネットコミュニティについては、援助をうける側のユーザー(受け手)が援助してあげるユーザー(やり手)に対して援助を要求するだけで、やり手の動機づけをコントロールすることができず、実際にどのような支援が得られるかはやり手に依存しているという問題が指摘されている[3]。だが、どのように依頼情報を伝えればやり手が動機づけられ、利他的意欲が高まるかについては研究がなされていない。 そこで、相互援助ネットコミュニティで依頼情報を閲覧するやり手側のユーザーのやってあげる意欲(利他的意欲)が、システムの違いつまりユーザインタフェースの違いにより、どのように影響されるかを明らかにする。本報告では、実施する実験計画の概要と開発した情報モニタリングシステムの概要について述べる。 図1 状況に応じた援助行動の意欲と実際の頻度との関係・対象者の親密度による違い[2] 11.21.41.61.822.22.42.62.830246810他人知人友人線形(他人)線形(知人)線形(友人)(対数)やってあげる意欲(心理量・中央値)実際にやってあげる頻度(平均値)(回/10回)332015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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