千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): 水道原水中農薬及び排水中ノロウィルスのパッシブモニタリングによる早期警戒監視システム手法の開発 研究者: 〇亀田 豊 千葉工業大学 KAMEDA Yutaka 工学部 建築都市環境学科 准教授 1.はじめに 現行の水道水中の農薬濃度管理方法は,各水道事業体が独自に農薬種を抽出し,年に数回,水道原水や浄水中濃度の瞬間値をモニタリングし,総農薬方式で評価する。しかし,抽出した農薬の妥当性,意図的・非意図的な想定外の農薬類の混入,年間を通した水道水の農薬に関する安全性等についてこの方法による実証的な知見は少ない。農薬類のみならず,汚染物質の水圏への非定常的な流入監視によるリスク低減は,より安全な社会の構築に必要不可欠であるとともに,現在の水環境モニタリング技術分野において,さらなる技術革新が必要とされる分野ではないかと考えられる。そこで,本研究室では水道水質基準と関連性の深い,親水性農薬類,疎水性農薬類及びネオニコチノイド系農薬類等の微量汚染物質を対象として,パッシブサンプラーや新型オンサイト濃縮デバイス(“TURBAN”)による連続モニタリング手法及び水質評価手法に関しての研究を行っている。 本発表では,GC/MSで多成分同時分析が可能である66種の農薬類のパッシブモニタリング手法確立に関する研究について発表する。具体的には,農薬類のパッシブサンプリングに適切な吸着材の選定,簡便な抽出方法の確立及び室内キャリブレーション試験結果について報告する。 2.研究の内容 (1) 適切な吸着材の選定と簡易的な溶出方法の確立 分析対象物質:66種農薬混合標準液水質1-2(和光純薬)に含まれる農薬類66種を分析対象とした。また,サロゲート物質として,Anthracene-d10,9-Bromoanthracene,さらに,Performance Reference Compound(PRC)候補としてnaphtharene-d8,acenaphthene-d10,acenaphthylene-d8,phenanthrene-d10,fluoranthene-d10,pyrene-d10,fluoren-d10,benzophenone-d10,benzyl cinnamate,chrysene-d12,perylene-d12も分析対象物質とした。 パッシブサンプラーに使用する吸着材:過去の事例を整理した結果,通水分析における回収率の高いSDB-XDディスク(3Mジャパングループ製)とした。 新溶出方法による添加回収試験: 各対象物質0.1μg水溶液をガラス吸引器によりSDB-XDディスクに通水し,各対象物質を吸着させた。吸着後,ディスクを吸引通気により脱水し,ディスクをシリンジタイプ溶出器(図1)に入れ,さらにサロゲート混合液をマイクロシリンジによりディスク上に添加した。最後に,シリンジにアセトン3mL,次いでジクロロメタン11mLで,手動によりディスクから対象物質を溶出させ,溶出液を直接遠沈管に受けた。溶出液はそのまま窒素パージで濃縮し,濃縮液中濃度をGC/MSにより測定した。 分析方法:既往の分析方法1)に従った。 (2) 室内キャリブレーション試験 30 Lの水槽内の上下二段のカルーセルにパッシブサンプラーホルダーに入れたSDB-XDディスクを14個乗せ,対象物質混合標準液による流水式暴露試験を行った。定期的に上下一つずつパッシブサンプラーを回収し,SDB-XDに吸着した対象物質量を分析,吸着速度(sampling rate)を算出した。暴露試験はカルーセルの回転速度を2段階で行い,各々のsampling rateを計算し,ディスク直上の流速が与えるsampling rateへの影響を検討した。 (3) 結果と考察 従来のエムポアディスクの溶媒抽出法は,少量の有機溶媒を大型のガラス吸引器を用いて行う煩雑的なものであった。本溶出方法では手動で溶出ができるため,溶出速度を容易に調整できるとともに直接15 mLの遠沈管に溶出液を入れられるため,作業効率が良く,コンタミも少ない。さらに回収率においても,トリクロルホン,ペンシクロンを除く64種の農薬類で63.7(ジスルホトン)~111.3%(マラチオン)とおおむね良好な結果が得られた(Table 1)。この結果より,農薬類66種及びサロゲート類に対する吸着ディスクを用いたパッシブサンプリング手法やグラブサンプリング手法において,従来法よりも簡易的な抽出方法が確立された。 Fig.1 Disk extraction apparatus developed in our laboratory 312015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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