千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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3.研究成果 (1) SFNEの経時変化による安定性評価 油混合率0.1 vol.%のO/W型SFNEの生成直後から生成100日後までの平均油滴径,その多分散度,さらに負のζ電位の経日変化をFig.1に示す。また,生成100日後のTEM像も図中に示す。生成直後の油滴径は数十nmと非常に微細かつ均一であり,生成後100日間経過しても顕著な油滴の成長はみられなかった。油滴の成長速度は約10-28 m3/sであった。炭素鎖が6~8の炭化水素からなる油滴は凝集・合一,炭素鎖が10~16の炭化水素からなる油滴はOstwald ripeningが支配的と考えられているが,本研究で生成したSFNEはOstwald ripeningとして求めた成長速度より遥かに遅く,多分散度の低さと負電位の高さが成長を抑制していると推測される。また,油混合率1.5 vol.%相当まで濃縮・調製したSFNEの油滴径に顕著な増大は確認されなかった。 フミン酸についてもSFNE化により分子集合体(超分子)が破壊され,安定混合(水に対する溶解)できることが解明された。 (2) SFNEの油水二相間の界面構造 SFNEの油滴成長抑制に,油滴表面に生じた静電的斥力ポテンシャルがはたらくことは理解できたものの,そもそも分極した結合をもたないn-pentadecaneの非極性化合物の集合体(油滴)に負の電位が強く生じるのか。SFNEの安定性には油分子の集合体の大きさと均一性の影響に加え,その油分子の集合体を包接するように極性化合物である水分子の配位(疎水性水和)が影響していると考えられる。 Fig.2にn-pentadecaneのO/W型SFNE(油水比0.1 vol.%)の平均油滴径に対する負のζ電位,ならびに水のプロトン核の緩和時間比T1/T2比との関係を示す。相関性は低いものの,油滴径が小さくなると負のζ電位,T1/T2比ともに増加傾向を示した。分子自体の回転相関時間cは非常に小さく,水のみの分子運動と相違ない無秩序な運動状態を示しているものの,SFNE化することで0.1 vol.%と低い油水比にも関わらず徐々に水の分子運動が緩慢になっていることが理解でき,油滴界面を中心とした疎水性水和構造の形成が示唆された。 DSC法による固-液相転移にともなう潜熱量からSFNEの油/水界面構造を定量的に解析した。SFNEの油分量と油滴径をそれぞれ測定し,さらにSFNEの潜熱量から,SFNE油滴径に対する油/水界面構造を各状態の水,油の相厚として整理した(Fig.3)。油滴中の非バルク油相の厚みは,油滴径500 nmまでは増加傾向を示すが,それ以上では200 nm程度で一定となった。一方,水和水相の厚みは油滴径に対し指数近似(y=58.8e0.0026x,r=0.88)され,SFNEの安定化には疎水性水和構造に必要とされる水分子の数が強く関係する。この結果から,非バルク油(n-pentadecane)分子1個に必要とされる水和数は約60~600であり,SFNEの油滴径が大きくなればなるほど安定化するために多くの水分子が必要となる。逆にSFNEの最大油水比は20 vol.%まで理論的に生成可能であると示唆され,今後の進展が期待される。 【研究業績】 ①矢沢勇樹 (2015):『マイクロバブル(ファインバブル)のメカニ ズム・特性制御と実際応用のポイント』, pp.220-230, 情報機構. ②矢沢勇樹, 江口俊彦 (2014):『エマルションの分析・製品評価』, pp. 183-194, 技術情報協会. 050010001500200004008001200Phase thickness(nm)Average size of droplet(nm)Bulk water Non-bulkwater Non-bulk oil Bulk oil Fig.3 Relation between average droplet size and interfacial structure between oil/ water in O/W SFNE. 30354045500100200300400Average size of droplet(nm)Negative ζpotential (mV)1.0/551.41.82.22.63.0T1/T2(s/s)Fig.2 Relation between average droplet size and negative potential of dispersal PD phase or T1/T2 ratio of water in O/W SFNE. 0.00.20.40.60.81.0030609012002040608010050250Standing time (days)Negative ζ potential (mV)Polydispersity(-)Droplet size (nm)500nmFig.1 Standing time dependence of average droplet size, polydispersity and negative potential of dispersal PD phase in O/W SFNE. 302015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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