千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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って,Glycosyl transferaseホモログとして登録されているタンパク質と約22%のアミノ酸配列の相同性が見られた。相同性がみられた箇所と糖鎖合成の機能とがどのように関連しているか現在解析中である。また,Ta0859周囲の遺伝子の機能情報をKEGGデータベースをもちいて調べたところ,複数の機能未知遺伝子が並んでおり,これらとクラスターを形成している可能性が示唆された(図3)。そのうちの遺伝子Ta0860は,Glycosyl transferaseホモログとの相同性がみられた。他の周辺遺伝子についても解析を進めている。 (2) リアルタイムPCRによる発現解析 マイクロアレイ解析の結果が再現されるか確認するため,同様にpHを変化させた培養条件でT. acidophilumを培養し,抽出したRNAの発現量をリアルタイムPCR法(Roche社LightCycler 96)で解析した。その結果,Ta0859の発現量は,至適pHであるpH1.8と比べて酸性側のpH1.2で培養したときには,約1.6倍上昇した。これは,マイクロアレイ解析の結果(約1.5倍)とほぼ同じ値であった。一方,中性側のpH2.4で培養したときには転写量が約0.6倍へと低下した(図4)。この結果から,Ta0859遺伝子は酸性側pHでより発現することが示唆された。 (3) Ta0859遺伝子のクローニングとタンパク質発現 Ta0859遺伝子由来のタンパク質が糖鎖合成活性を有するか確認するため,T. acidophilum ゲノムDNAをテンプレートにTa0859遺伝子をKOD DNA polymerase(TOYOBO社)でPCR増幅し,Tベクター(Takara-Bio社)へクローニングした。塩基配列が正しいことを確認した後にpET28a ベクターへサブクローニングし,BL21株の派生株である,Rosetta(DE3)株およびRosetta-gami2(DE3)株で目的タンパク質の発現を試みた。いずれも可溶性タンパク質としては発現されず,不溶化が確認された(図5)。現在,可溶性タンパク質として得るためにタンパク質発現条件を検討中である。 3.まとめ T. acidophilumは,pHの低下による影響を緩和するために遺伝子の発現変化を通して細胞膜脂質分子の構造を変化する機構をもつと考えられる。そのうちの糖鎖長の伸長を担う酵素をコードする遺伝子を推定し,同定を試みた。今後は,候補として解析中のTa0859遺伝子の機能を解析すると共に,Ta0859遺伝子の発現変化を引き起こす制御タンパク質の同定を目指し,アーキアにおける環境変化に対する機構を解明したいと考えている。 参考文献 (1) Haruo Shimada, Naoki Nemoto, Yasuo Shida, Tairo Oshima, and Akihiko Yamagishi. (2008) Effect of pH and temperature on the composition of polar lipids in Thermoplasma acidophilum HO-62. Journal of Bacteriology, 190: 5404-5411. 図3. T. acidophilum におけるTa0859遺伝子周辺のゲノム構造 機能未知遺伝子として登録されている遺伝子が多数隣接して並んでおり,クラスターを形成している可能性が示唆された。 図4.リアルタイムPCR解析による生育環境pHの変化に伴うTa0859遺伝子の発現量の変化 T. acidophilumを至適pHであるpH1.8とpH1.2,pH2.4でそれぞれ培養してRNAを抽出し,Ta0859遺伝子の発現量をpH1.8での培養時に対して比較した。pH1.2で培養したときには,約1.6倍上昇し,pH2.4で培養したときには,約0.6倍に低下した。 図5. Ta0859遺伝子を大腸菌菌体内で発現させたときのSDS-PAGE Ta0859遺伝子をpET28aベクターにクローニングし,大腸菌Rosetta-gami2(DE3)株をホストとして,IPTGによるタンパク質発現誘導を行った。誘導後一定時間で菌体を回収し,破砕の後に遠心分離によって上清と沈殿に分けてSDS-PAGEを行った。アミノ酸配列から予想される30 kDa付近に発現誘導時のみバンドがみられたことから,発現を確認したが,いずれも上清のサンプルではバンドを確認できなかった。 282015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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