千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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図3a)の作製に成功している(1).Apt1-Sは,本来Runt domainが結合するDNA配列に比べて約10倍強くRunt domainに結合する(Kd = 1.0 nM).また私たちは,Apt1-Sの部分構造(Apt1-S2;図3b)を明らかにしており,構造解析の結果からApt1-S2が標的DNAを擬態して結合することが示唆されている(2).そこで本研究では,これまでの研究を発展させ,人工RNAとRunt domainの相互作用様式について原子座標レベルで明らかにすることによって,人工核酸をデザインするための分子基盤を確立することを目的とした. 図3 NMR解析に用いた人工RNAとペプチド a) Apt1-S, b) Apt1-S2,c) RCP 2.研究の内容 (1)方法 人工RNAを調製するためには,T7 RNAポリメラーゼによるin vitro転写系を用いた.Runt domainの調製のためには,大腸菌による大量発現系を用いた. Runt domainと人工RNAの複合体についてNMR測定を行った.NMRシグナルを帰属するための三重共鳴実験では,超高感度検出器を備えた核磁気共鳴装置を用いた.NMR解析ソフトウエアとしては,MagROを用いた. また,Runt domainのC末端に相当するペプチド(RCP;図3c)については化学合成した. RCPと人工RNAの複合体についてNMR測定を行った. 人工RNAを作製するためには,SELEX法を用いた.40残基のランダム配列を含む鋳型DNAを化学合成し,この鋳型DNAライブラリを用いて,転写反応によりRNAプールを調製した.Ni-NTA樹脂に固定化したRunt domainに結合するRNAを選別した後,逆転写PCRにより,DNAライブラリを再生した.これらの操作を繰り返し,Runt domainに結合する人工RNAを作製した.作製した人工RNAのRunt domainに対する親和性については,表面プラズモン共鳴(SPR)および等温滴定型カロリメトリ(ITC)を用いて解析した. (2)結果および考察 NMRを用いて,Runt domainとApt1-Sの相互作用の解析を試みたところ,Runt domainとApt1-Sの複合体のNMRシグナルがブロードニングしたため,構造解析が困難であった.そこで,RCPとApt1-S2の相互作用の解析を行なった.Apt1-S2のイミノプロトンスペクトルを測定し,シグナルを帰属した.さらに,RCPを加えてイミノプロトンスペクトルを測定したところ,ステムの中心付近に位置するヌクレオチドに由来するシグナルがシフトした.このことから,Runt domainのC末端に相当するRCPは人工RNAに特異的に結合していることが示唆された.しかしながら,複合体の立体構造を決定するために必要なNMR情報は得られなかった. さらに,Runt domainに対してSELEXを行ない,新たに人工RNAを作製した.ITCを用いてRunt domainに対する結合活性を調べたところ,新しく作製した人工RNAは,既に発表しているアプタマーに比べて10倍以上強く結合するRNAアプタマーの取得に成功した.二次構造予測に基づいてアプタマーを短鎖化し,NMR解析を行なった.2D NOESY スペクトルを測定し,イミノプロトンシグナルを解析したところ,アプタマーは2つのステムループ構造と1つの多岐ループを持つことが明らかとなった.今回取得したアプタマーと既に報告しているアプタマーの配列の比較から,今回のアプタマーにも標的DNAをミミックしている部分があることが示唆された.さらに,変異体を用いた解析から,アプタマーの結合活性には,標的DNAをミミックしている配列と多岐ループが重要であることが明らかとなった.多岐ループとRunt domainとの相互作用によって,標的DNAや既に発表したアプタマーより強い結合活性を示していることが示唆された.今後,NMRを用いて,新しい人工RNAとRunt domainの相互作用を解析する計画である. 参考文献 1) Fukunaga J., Nomura Y., Tanaka Y., Amano R., Tanaka T., Nakamura Y., Kawai G., Sakamoto T., Kozu T., “The Runt domain of AML1 (RUNX1) binds a sequence-conserved RNA motif that mimics a DNA element”, RNA, 19, 927-936, (2013). 2) Nomura Y., Fukunaga J., Tanaka Y., Fujiwara K., Chiba M., Iibuchi H., Tanaka T., Nakamura Y., Kawai G., Kozu T., Sakamoto T., “Solution structure of a DNA mimicking motif of an RNA aptamer against transcription factor AML1 Runt domain”, J. Biochem., 154, 513-519, (2013). 262015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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