千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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膜およびアモルファスのBiFeO薄膜ではドメインが観察されず,SrFe12O19単層膜とアモルファス状のBiFeO薄膜が誘電特性に起因した分極を持たないことを示している.一方,結晶性のBiFeO3にはドメインが観察され,BiFeO3の誘電特性が示唆された. 図2 a SrFe12O19(膜厚; 50 nm)単層膜, b BiFeO(アモルファス; 100 nm)/SrFe12O19(膜厚; 50 nm), c BiFeO3(膜厚; 100 nm)/SrFe12O19(膜厚; 50 nm)のEFMイメージ.測定は大気雰囲気下で行った. 本研究ではBiFeO3相内における磁区(すなわち磁性)と電気的なドメイン(すなわち誘電分極)の共存を,微細構造の直接的な観察によって明らかにした. さらに, 電界制御型情報ストレージを開発する上で基盤技術となる外部磁界による電気的ドメイン方向の制御ならびに外部電界による磁区方向の制御を試みた.図3aは原子間力顕微鏡(AFM)で観察したBiFeO3/SrFe12O19二層膜の表面形態, 図3bは図3aと同一観察視野におけるEFMイメージによる電気的ドメイン構造である.図2で明らかにしたように, BiFeO3に由来するドメイン構造が観察された. 図3cは図3bに基づいて考察したBiFeO3の分極状態の模式図である.図3acではBiFeO3の分極方向が垂直上向き/垂直下向き,あるいは膜面内を向いており,ランダムな分極方向が存在すると推測される.これに対し図3d, 図3eは同じBiFeO3/SrFe12O19試料に外部から24 kOeの大きな磁界を膜面垂直方向に印加した直後のAFM(図3d)およびEFM(図3e)イメージを示している. 図3 BiFeO3(膜厚;100 nm)/SrFe12O19(膜厚;50 nm)におけるa AFMイメージ, b EFMイメージ, c BiFeO3の分極状態の模式図. 一方,同一試料の膜面垂直方向に対して24 kOeを印加した後のd AFMイメージ, e EFMイメージ, f BiFeO3の分極状態の模式図. 図3bと図3eを比較すると,外部磁界印加後は電気的ドメインを表すコントラストが消失していることがわかる(図3e).コントラストの消失は, 試料に垂直方向に印加した外部磁界によって, BiFeO3の分極方向が外部磁界と同じ方向に強制的に揃えられたと推測される.この時のBiFeO3の分極状態の模式図を図3fに示す.なお図3a, 図3bと図3d, 図3eは同一視野を観察している.本実験を通し,磁界によるBiFeO3の分極方向の制御は可能であると結論できる. さらに電界制御型情報ストレージを開発するために,外部電界によるBiFeO3の磁化方向の制御を試みた.この実験にはこれまでと同様にBiFeO3(膜厚;100 nm)/SrFe12O19(膜厚;50 nm)二層膜を用いた.EFMプローブと試料表面の距離を200 nmとし,EFMプローブに0.8 Vを印加した直後に磁区構造を観察し,次いでEFMプローブに0.8 Vを印加した後に同一視野の磁区構造を観察したが,EFMプローブに印加した電圧の極性の正負により磁区構造,すなわち磁化の向きを反転させることはできなかった.従って電界によるBiFeO3の磁化方向の制御については,現状では解決すべき課題として残っている. 3.まとめ 本研究では, 外部電界によるデジタル情報記録システムを確立し,これを環境指向型の情報ストレージの開発につなげていくための基盤的研究としてBiFeO3/SrFe12O19二層膜を作製し,磁界によるBiFeO3の分極方向の制御ならびに電界によるBiFeO3の磁化方向の制御を目的とした. BiFeO3/SrFe12O19二層膜の磁区および分極ドメインの直接的な観察を詳細に行い, BiFeO3相における磁化と分極の共存を確認した.次いで磁界によるBiFeO3の分極方向の制御の可能性を示した.一方,電界によるBiFeO3の磁化方向の制御については現段階では結論することができず,今後の課題である. 本研究に関する主な発表論文 現在作成中 参考文献 (1) N.A. Hill, Journal of Physical Chemistry B 104 (2000) 6694. (2) M. Fiebig, T. Lottermoser, D. FrÖhllch, A.V. Goltsev, and R.V. Plsarew, Nature 419 (2002) 818. (3) T. Kimura, T. Goto, H. Shintani, K. Ishizaka, T. Arima, and Y. Tokura, Nature 426 (2003) 55. 222015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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