千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): 環境調和型情報ストレージの開発を目指した電界による情報記録システムの確立に関する研究 研究者: 安川 雪子 千葉工業大学 YASUKAWA Yukiko 工学部 電気電子情報工学科 准教授 1. はじめに ペロブスカイト構造を有する多くの酸化物には, 古くから優れた誘電特性が知られている.ペロブスカイト構造のBiFeO3は非鉛含有強誘電物質として,また近年では室温におけるマルチフェロイック材料として広く研究されている. (1)またBiFeO3は誘電特性に加え,Gタイプの反強磁性の磁気秩序を有し弱強磁性を発現するためP-EループやM-Hループの測定による磁気特性や誘電特性がこれまでに多数報告されてきた.しかしこれらの物理的特性はマクロスコピックな観点に基づいた評価であり,BiFeO3の磁区や分極に由来するドメイン構造などのミクロスコピックな物理的構造の報告例はこれまでに殆どない.(2)一方,c軸配向したマグネトプラムバイト型構造のストロンチウムフェライト(SrFe12O19)は,化学的に安定で優れた垂直磁気異方性を有する. そこでc軸配向したSrFe12O19とBiFeO3との磁気的な交換結合を期待し,我々はBiFeO3/SrFe12O19二層膜を作製し,磁界によるBiFeO3の分極の制御,電界によるBiFeO3の磁化の制御, BiFeO3SrFe12O19間の交換結合を介した電界によるSrFe12O19の磁化制御に関する研究を行った.最終的には外部電界によるデジタル情報記録システムを確立し,これを環境指向型の情報ストレージの開発につなげていきたいと考えている.(3)本研究では電界制御型情報ストレージを開発する上で基盤となるBiFeO3/SrFe12O19二層膜の磁区および分極ドメインを詳細に直接的に観察した. 2.研究の内容 (1)実験方法 基板には熱酸化シリコン膜付のSi基板(SiO2/Si)を用いDCマグネトロンスパッタ法によりAr/O2混合雰囲気中で膜厚50 nmのSrFe12O19を成膜した.この時のAr分圧(PAr)とO2分圧(PO2)はPAr : O2 = 99 % : 1 % とし,スパッタガス圧を2 103 Torrとした.またスパッタパワー密度は1.2 W/cm2とした.成膜後に電気炉で大気雰囲気下にて750 C, 1時間の熱処理を施しSrFe12O19を結晶化させ,c軸配向した垂直磁気異方性薄膜を作製した.このSrFe12O19上に,同様の雰囲気下で膜厚100 nmのBiFeO3を堆積した.BiFeO3はPAr : O2 = 95 % : 5 %,スパッタガス圧2 103 Torr, スパッタパワー密度1.5 W/cm2でRFマグネトロンスパッタ法により成膜した. BiFeO3成膜後に大気雰囲気の電気炉で高温かつ短時間の熱処理(フラッシュアニール)を施してBiFeO3を結晶化しBiFeO3(膜厚;100 nm)/SrFe12O19 (膜厚;50 nm)を作製した.フラッシュアニール温度は700 C 850 C,アニール時間は45秒から11分に変化させて二層膜を作製した. 結晶相の同定にはX線回折法(XRD; Rigaku),磁気特性の測定ならびに磁区構造の観察には振動試料型磁力計(VSM; 玉川製作所)および磁気力顕微鏡(MFM; Veeco)を用いた.また分極ドメインの観察には電気力顕微鏡(EFM; Veeco)を用いた. (2)結果および考察 XRD回折パターンより,SrFe12O19およびBiFeO3は何れも単一相であることが確認された.また下地層のSrFe12O19はc軸方向に配向したSrFe12O19 (00l)であることが明らかとなった.これに対し,BiFeO3には選択的な結晶配向性は認められず,ランダムな結晶成長が確認された. 図1 にSrFe12O19単層膜と二層膜のMFM像を示す. 図1 a SrFe12O19(膜厚; 50 nm)単層膜, b BiFeO(アモルファス, 膜厚; 100 nm)/SrFe12O19(膜厚; 50 nm), c BiFeO3(結晶,膜厚; 100 nm)/SrFe12O19(膜厚; 50 nm)のMFMイメージ.測定は大気雰囲気下で行った. 図1aと図1cについては自然発生的に生じた磁区が確認され,磁区は様々な形状を有している.単層膜の磁区サイズは500 nm 1 mであったが二層膜の磁区は1.5 m 2 m程度であり,中には2.5 mを超える磁区も観察された.一方図1bでは明瞭な磁区構造は観察されなかったことから,アモルファスのBiFeO薄膜は磁性体化していないことがわかる.またこの結果より, 図1cの磁区構造は結晶化したBiFeO3薄膜に由来し,下地層のSrFe12O19の磁区構造によるものではないことがわかる.図1a (SrFe12O19)と図1c (BiFeO3)における磁区サイズの差異については未だ明らかとなっていない. 図1と同一の試料について,誘電分極によって生じる電気的なドメイン構造をEFMにより観察した(図2ac).単層212015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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