千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
28/168

触針先端をFESEM観察することによって加工による切れ刃の摩耗の評価を行った。 3.研究成果 触針の加工前と加工後の様子を観察しスクラッチ加工による摩耗の検討した。図1は、加工前の酸化セリウム触針の様子を示している。図のようにほぼ先端曲率半径0.2 µmの鋭利な状態であることがわかる。他のシリカ、酸化ジルコニウム、アルミナの材質の触針もほぼ同等の形状を加工前には示していた。加工によって最も摩耗していた触針はシリカであった。図4にシリカ触針の摩耗の様子を示す。シリカ触針の場合光ファイバと同一の材料であるため、お互いが摩滅し合いながら加工が進んだと考えられる。そのため、摩耗量が多く、また、加工面に塑性流動による大きな加工ダメージ(加工変質層)も無いと考えられる。シリカによるスクラッチ加工では、加工量は0.7 nm,反射減衰量は55dBであった。ここで反射減衰量は,加工ダメージの指標で値が小さいほどダメージが大きい1)。本検討では、あらかじめ光ファイバ端面は、仕上げ加工によってダメージは55dB 以上の非常に少ない状態にしてある。従ってシリカ触針によるスクラッチ加工では、ほとんど加工ダメージが発生してないことがわかった。これはダイヤモンド触針によるスクラッチ加工での加工量4.4 nm、反射減衰量39 dBと比べると加工量は少なく、ダメージも少なくなっている。一方、図4は酸化セリウムの加工後の摩耗の様子を示す。確かに摩耗をしているが摩耗はシリカに比べ非常に小さいことがわかる。酸化セリウム触針でのスクラッチ加工は、深さが10.5 nmで、反射減衰量は55dBとなり、深さはダイヤモンドより多いにもかかわらず反射減衰量は、加工前とほとんど変わらず加工ダメージは測定されなかった。 表1にシリカおよび酸化セリウム触針の摩耗量と加工量を示す。触針と被加工材料が同種であるシリカ砥粒の場合は、触針摩耗と加工量の比がほぼ1になり、これは同種材料がお互いに磨滅しながら加工したと考えられる。したがってダイヤモンド触針による場合のように光ファイバ材料に塑性流動が発生せず測定されるような加工ダメージが形成されなかったと考えられる。一方、酸化セリウムではモル換算で50倍程度加工量の方が大きくなっている。このことと、加工深さがダイヤモンドより深く、加工ダメージもほとんど測定されないことを考慮すると、加工に化学的作用が大きく関わっていることが考えられる。 4.まとめ AFMナノスクラッチ加工によって研磨における基礎過程をその化学的側面も含め明らかにした。そしてそれは実際の研磨加工良く反映していることがわかった。AFMスクラッチ加工によって直接研磨加工におけるナノ形状砥粒と被加工材との加工特性を検討できる可能性を見出すことができた。 (a) 正面 (b) 側面 図3 加工前の酸化セリウム触針のSEMによる観察 (a) 正面 (b) 側面 図4 加工後のシリカ触針FE-SEM画像 (a) 正面 (b) 側面 図5 加工後の酸化セリウム触針FE-SEM画像 表1 触針摩耗と加工量 本研究に関する主な発表論文 (1) 佐藤天哉、松井伸介、梅村茂、2014年度精密工学会秋季大会、2014年09月16日~2014年09月18日、鳥取大学(鳥取県鳥取市) (2) 志関真生,松井伸介、2014年度千葉県加工技術研究会 要旨(2015) (3) 若井俊、上方翔平、松井伸介、梅村茂 、2015年度精密工学会春季大会、2015年3月17日~2015年3月19日、東洋大学(東京都文京区) 参考文献 1)松井伸介 大平文和 小藪国夫 松永和夫:“光ファイバの端面研磨と加工変質層-加工変質層と反射減衰量の関係-”,精密工学会誌,64 (1998) 1467 162015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です