千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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して観測されたAE波形の中で,閾値を超える振幅が何回発生しているかをカウントしたものであり,転位の発生頻度に対応するものである.また,応力‐ひずみ曲線における比例限に対応する時間を縦の一点鎖線で示している.図1より,比例限に対応する時間近傍からAEカウント数が増加しているのが見て取れる.また,最大のカウント数は約30000に達した.これは比例限近傍において転位が急激に導入・増殖していることに対応していると考えられる.同様の傾向が200℃~350℃での焼鈍材でも見られた.図2にARBまま材の応力-時間曲線とAEカウント‐時間曲線を示す.図より,変形開始5~10秒後にAEが発生しており,カウント数の最大値は約250であった.また,400℃焼鈍材で見られたような比例限近傍でのAEカウントの増加は見られなかった.100℃と150℃焼鈍材でも同様の傾向が見られた.以上の結果より,200℃以上で焼鈍を行った試料では,比例限近傍で転位の増殖に起因すると思われる大きなカウント数をともなうAEが発生することが分かった.一方,ARBまま材,および150℃以下の焼鈍材では,わずかなカウント数のAEが変形の初期に現われるのみで,比例限近傍ではAEが発生しないことが明らかとなった.これらのAE発生の違いは,転位の導入,増殖機構の違いを示唆する結果であると考えられる.今回,組織観察による粒径測定を行っていないが,従来得られている実験結果をもとに,それぞれの応力-ひずみ曲線から0.2%耐力を求め,平均結晶粒径を推定した.推定される結晶粒径は,ARBまま材,100℃,150℃,200℃,250℃,300℃,350℃および400℃時効材で,それぞれ,0.2m,0.2m,0.2m,0.2m,1.3m,5.3m,6.7mおよび10mである.これらの粒径を考慮し,実験結果について考察すると,1.3m以上の結晶粒径では,比例限近傍でAEが発生し,それ以下のサブミクロンの結晶粒径の試料では,比例限近傍でもAEはほとんど発生していないといえる.すなわち,1.3m以上の結晶粒径を有する試料においては,巨視的な降伏が生じるときに転位が集団的に活動し,急激な転位の導入・増殖が生じているものと考えられる.一方で,結晶粒径が1m以下の超微細粒試料では,比例限を超え,巨視的には塑性変形が生じているにもかかわらず,AEを観測することができなかった.以下,粗大粒材と超微細粒材の転位の導入・増殖の違いについて考察する.粗大結晶粒内部には,変形前から転位源となりうる転位セグメントが粒内に存在し,巨視的な降伏時にはその粒内転位源から転位が大量に放出される.転位放出に要するせん断応力は,転位セグメント長さに反比例するため,長い転位セグメントが選択的に活動する,すなわち,粒内の限られた数の転位源からの転位放出が生じていると考えられる.つまり,少ない転位源から,同時に多数の転位が放出されていると推測される.その一方で,結晶粒が1m以下まで微細化すると,転位セグメントの長さも必然的に1m以下となり,転位源として活動するために必要な応力が非常に大きくなる.このような状況下では,粒内転位源を活動させるよりも,結晶粒界からの転位導入が容易に起きるようになると考えられている.この場合,粒界のさま 図1 8サイクルARB加工を施した試料に400℃-0.5hの焼鈍を施した試料の公称応力-時間曲線とAEカウント-時間曲線(過去の実験結果より,推定される結晶粒径は10m) 図2 8サイクルARBを施した試料の公称応力-時間曲線とAEカウント-時間曲線(過去の実験結果より,推定される結晶粒径は0.20m) ざまな位置から転位が放出され,転位源となることを考えると,先に述べた粗大粒材量の場合よりも転位源が非常に多く存在すると考えられる.また,転位源の数が多ければ,一つの転位源が担うべき転位放出の数も減少する.したがって,超微細粒材料では,多数の転位源から少量の転位が放出されることで降伏が生じている可能性が考えられる.このような一つの転位源が担うべき放出転位の数が大きく異なることが,粗大粒材料と超微細粒材料のAE発生挙動の違いとして表れているものと考えられる. しかしながら,ARBまま材は結晶粒内に転位を多く含む加工組織であり,低温での焼鈍では転位が十分回復しておらず,粒内に引張試験前から存在する転位の影響を考慮しなければならない.今後は,AE発生に及ぼす結晶粒径の影響と粒内転位の影響について十分検討したうえで,種々の試料について転位増殖機構を考察していく予定である. 3. まとめ ARB加工を施した純アルミニウムに対し,200℃以上で焼鈍を行った試料では,比例限近傍で転位の増殖に起因すると思われる大きなカウント数をともなうAEが発生することが分かった.一方,ARBまま材,および150℃以下の焼鈍材では,わずかなカウント数のAEが変形の初期に現われるのみで,比例限近傍ではAEが発生しないことが明らかとなった.これらのAE発生の違いは,転位の導入,増殖機構の違いを示唆する結果であると考えられる. 142015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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