千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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研究項目: 科研費申請準備支援助成金 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): 転位の集団的運動の動的測定法の確立とその加工硬化率への影響 研究課題名(英文): Observation of collective dislocation motion and effect of collective dislocation motion on work-hardening behavior 研究者: 寺田 大将 千葉工業大学 TERADA Daisuke 工学部 機械サイエンス学科 准教授 1. はじめに 金属材料の塑性変形の素過程は転位の運動である. 材料中で転位が活動し始め,材料全体で転位が集団的に運動を始めるようになると,材料は降伏し,加工硬化する.金属材料の変形挙動を理解するためには,転位の集団的な活動やそれにともなう加工硬化挙動を知ることが重要である. ところで,近年,巨大ひずみ加工により結晶粒径が1m以下の超微細粒組織を有する材料の力学特性について報告されており,粗大結晶粒材料とは異なった性質を示すことが明らかとなっている.例えば,降伏強度σyは平均結晶粒径dに対して,d -1/2に比例するHall-Petch(H-P)の関係が古くから知られているが,超微細粒材料の降伏応力は,平均粒径10m以上のデータにもとづいてH-Pの関係から予想される強度よりも高い強度を示すことが知られている.この強度上昇の理由として,転位の増殖機構の違いが要因ではないかと考えられている.粗大結晶粒材料では,結晶粒内に存在する転位からの転位増殖(Frank-Read 機構)が起きる.一方,超微細粒材料では,粒内転位からの転位放出が困難なため,結晶粒界から転位が導入されることで変形が生じている可能性が考えられている.しかしながら,考察の域を出ず,実験的な検証は行われていない.したがって,議論を進め超微細粒材料の変形挙動を理解するためには,結晶粒径による転位の導入・増殖機構の変化について,実験的な検証が必要である.以上のような背景から,本研究では,結晶粒径を数百nmから数十mまで変化させた試料を作製し,変形中の転位の導入・増殖機構について検討することを目的とした. 2. 研究の内容 バルク金属材料の変形中に,転位の運動を直接観察することは,現在のところ非常に困難である.そこで,転位運動の情報を得る手段として,本研究では,アコースティック・エミッション(AE)に着目し研究を行った.AEとは,転位が材料に導入される際,ひずみエネルギーの一部が弾性波として解放されたものである.したがって,変形中のAEを測定することで転位の導入・増殖についての情報が得られるものと考えられる.一つの転位導入に伴うAEは非常に小さく,現在の計測機器ではとらえることが難しい.実際の引張試験中に検出されるAEは,転位の大規模な集団運動によって発生したものと考えることができる. 本研究では,種々の粒径を有する試料に対して,引張試験を行い,引張試験中のAE測定から転位の集団的運動に及ぼす結晶粒径の影響について調べた. 本研究では試料として工業用純アルミニウム(A1100,純度99%)を用い,結晶粒をサブマイクロメートルまで微細化することができる巨大ひずみ加工法の一種である繰返し重ね合わせ接合圧延(ARB:Accumulative Roll-Bonding) 加工を施した.ARB加工では,潤滑条件の圧延を行い,8サイクルのARB加工を行った.ARB加工後の試料に対し, 100℃,150℃,200℃,250℃,300℃,350℃,400℃の各温度で0.5時間焼鈍の後,空冷することで結晶粒径が異なる種々の試料を作製した.作製したARBまま材および各焼鈍材に対して,試験温度を室温,ひずみ速度を8.3×10-4 s-1とする引張試験を行った.さらに,引張試験中に生じるAEの測定を行った. 図1に,400℃焼鈍を施した試料の応力-時間曲線とAEカウント‐時間曲線を示す.AEカウントとは,一つの波形と132015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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