千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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ドキュメンタリービデオには,NHKの「目撃日本列島」というドキュメンタリーシリーズの「負けて強くなれ 愛媛・将棋道場の日々」という番組を用いた.この番組の登場人物は,将棋道場の指導者とそこに通う中学生の少年で,あらすじは以下の通りである. 少年は全国大会レベルの実力を持っているが,特定の戦法にこだわりがあり,また,負けたときに棋譜を付けて振返りを行うことをしない.指導者は,少年が成長するためには負けから教訓を引き出すことが必要だと考えて何度も注意するが,少年は聞き入れようとしない.ある大会で,少年はあと一歩で優勝というところで敗退してしまう.大会後の練習で,少年は自分の戦法に迷い,慣れない戦法を使うがあっさりと負けてしまう.そのような悩みの中から,ようやく指導者の言葉を受け入れて,棋譜を付けて負けを振り返るようになる. この内容を自己調整学習や熟達化の観点で分析すると,自己評価(特に失敗を認めること)や,結果だけでなく遂行過程における思考を内省することの重要性などを見出すことができる.また,戦法の選択に関するメタ認知的知識や,慣れたやり方を捨てるという熟達化において次の段階に進むための壁[4,p.38]に相当するものも見出すことができる. 視聴に際して以下のように指示を出し,翌週までにレポートを提出させた. 「将棋道場の日々」のビデオ(約25分)の主人公の行動や言動を,「自己調整学習」,「熟達」,「構成的学習」などの観点からまとめてください.自分の勉強や習い事,部活などの経験とできるだけ結び付けてみてください.また,主人公は今後成長できるかどうか考えてみてください. キーワード: • 自己評価を避ける/求める • 結果の/過程のモニタリング • 間違いを受け入れない/重視する • より効率的に/よりよく(スマートに,美しく,完璧に・・・) • 防衛的決定/適応的決定 • (本番での)能動的モニタリング,戦略の切替 ビデオ視聴の後,レポート提出とともに,アンケートにも回答させた.結果を表1,表2に示す.ビデオの内容を客観的に観察するとともに,自分の経験や自己調整学習の概念結び付けて理解していることがわかる. 今後,学習主題を整理し,学部のより大規模な授業において,実践的に研究を進めていく.また,自己調整学習に関する学習者の経験にはかなりばらつきがあることが予想されるので,それについても状況を調査し,対応を検討していく. 表1 ビデオについて(n=8) ビデオと自分の経験が結びつく点があった 段階1 ・ ・ 4 ・ ・ 7 人数 1 3 3 1 1:まったく当てはまらない~7:非常によくあてはまる表2 ビデオの理解項目(n=8, 複数選択) 特に理解が深まった概念を選べ 項目 人数 自己評価を避けるか,求めるか 3 結果だけをモニタリングするか,過程をモニタリングするか 5 間違いや失敗を振り返るか,受け入れないか 6 効率の追求か,よりよいやり方の追求か 1 課題遂行時の能動的モニタリング 1 表3 ビデオの印象(自由記述,任意) のビデオを視聴して,特に印象に残ったこと 主人公は試合に勝つことに執着しているため,新しい戦法を試すという姿勢は見られず,得意な戦法でばかり試合に挑んでいたこと.敗因を振り返り,どのようにすれば勝てたのかを考えることができなければ,彼がこれからも将棋で活躍していくのは難しいだろうと感じた. 主人公が目標にしていた高校生に負けて棋譜をつけるシーンを見て、主人公は少し成長したことを感じた 本研究に関する主な発表論文 (1) 仲林 清 (2015) 自己調整学習を促進するための授業設計に関する予備検討,教育システム情報学会研究報告, 29(5), 127-132 (2) 仲林 清 (2015) 組織における問題解決を主題とするビデオとオンラインレポートを活用した授業の受講者意識分析.日本教育工学会研究報告集,JSET15-1, 481-486. 参考文献 [1] 市川伸一(編)(2010) 発達と学習,北大路書房 [2] 三宮真智子(編著)(2008) メタ認知,北大路書房 [3] 自己調整学習研究会(編)(2012) 自己調整学習,北大路書房 [4] 金井壽宏,楠見孝(編)(2012) 実践知,有斐閣 [5] 仲林 清 (2013) 技術イノベーションを主題とするビデオとオンラインレポートを活用した授業実践,教育システム情報学会誌, 30(2), 172-186. [6] 仲林 清 (2015) 組織における問題解決を主題とする ビデオとオンラインレポートを活用した授業実践,教育システム情報学会誌,32(2), 171-185. 1382015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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