千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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研究項目: 科学研究費(挑戦的萌芽研究) 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): ビデオ視聴と自他レポート吟味により学習に関する内省を支援する教授設計の研究 研究者: ○仲林 清 千葉工業大学 NAKABAYASHI Kiyoshi 情報科学部 情報ネットワーク学科 教授 1. はじめに 近年,初中等教育や高等教育において自ら学ぶ力の育成が重視されている.また,産業界においても自ら学び続けることのできる人材が求められている.このような自ら学ぶ力に関して,学術的には,学習におけるメタ認知[1-2]や自己調整学習[3]などの研究が多数行われている.社会人の成長についても,熟達化の分野で熟達者の行動特性や学習形態について多くの研究が行われている[4].一方,このようなメタ認知,自己調整学習や熟達化を促進するための教授方法についても様々な研究があるが,多くは個別の教科・分野に依存したものとなっている. これらの先行研究が,特定の科目の授業設計において,自己調整学習を促進させる介入を行うものであったのに対して,本研究は,大学生レベルの学習者を対象に,自らの学習経験と,上記の学術的・体系的知識とを結びつけて内省・概念化させる機会を与え,以後の活動におけるメタ認知や学習方略の活用を促進することをねらいとしている.大学生は,だれもがメタ認知や自己調整学習ができるわけではないが,小中等の学習者に比べれば,上記のような学術的・体系的知識を理解するのに十分な知的水準を有していると仮定できる.また,学校での勉強やスポーツ・趣味・アルバイトなどを通じた学習過程に関する経験を有していると期待できる.そこで,これらの既有知識と学術的・体系的知識を結びつけさせて内省・概念化を促進する機会を設ける. 具体的には,報告者らがこれまで,技術イノベーションや組織における問題解決など,抽象度が高く正解が一意に定まらない分野の学習に適用して効果を確認したドキュメンタリービデオとオンラインレポート提出を組み合わせた授業設計[5-6]を適用する.この授業設計では,学習主題に関する体系的知識を説明したのち,学習主題に関連する観点を提示してドキュメンタリービデオを視聴させる.これによって,ビデオの登場人物の行動や考えを,体系的知識や自らの経験と関連付けて解釈させる.そして,その内容をレポートにまとめさせ,次の授業で全員のレポートを配布・閲読させて,自他の考えを比較して吟味させる. 2. 研究の内容 学習主題の詳細化,使用するドキュメンタリービデオの選定,学習効果の評価方法について並行して検討を進める. 1) 学習主題の詳細化 学習におけるメタ認知,自己調整学習や熟達化の分野では数多くの知見が得られており,これらをすべて学習主題として扱うことはできないので,いくつかの主題に絞り込みを行う.候補としては,学習と熟達化の双方の分野で重要と考えられる自己モニタリング・自己コントロール,方略に関するメタ認知的知識,自己効力感などが考えられる.また,自己調整学習における「予見→遂行→自己内省」という学習過程や,熟達化における初心者と熟達者の差異などを学習主題とすることも考えられる.これらは次のドキュメンタリービデオの内容と相互に関係するので並行して検討を進める. 2) ドキュメンタリービデオの選定・分析 ドキュメンタリービデオを選定し,上記の学習主題に沿って登場人物の行動や言動を解釈・分析する.選定の対象としては「プロフェッショナル 仕事の流儀」,「プロジェクトX」,「あしたをつかめ」といった主人公の失敗や成長を扱ったものが挙げられるが,他に報道・解説系の番組も想定される. 3) 学習効果の評価方法 自己調整学習や熟達化の分野では数多くの評価尺度が開発されているので,それらを参考にして学習効果の評価方法を検討する.また,インタビューなどの併用も検討する. 4) 教授設計 以上の検討結果を踏まえて,授業実践を行うための教授設計を行う.ここでは,学習におけるメタ認知,自己調整学習や熟達化に関する学術的知識の説明,ビデオ視聴の観点,レポート評価のルーブリックを検討する.このような設計による模擬授業を行い,学術的知識の解説内容,ビデオ視聴の観点,レポート評価のルーブリックを改善していく. 3. 現在の状況 大学院生を対象とする教育工学関連科目の中で予備実験を実施した.授業には2コマを充てた.1コマ目では,自己調整学習の概念を説明した.2コマ目では,前回の説明を簡単に振り返った後,ドキュメンタリービデオを視聴させた. 1372015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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