千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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ロコズム構成微生物の個体数を,プランクトン計数板を用いて光学顕微鏡にて測定した. (5)P/R 比測定 マイクロコズム内のDO値の変化をDOセンサーにより培養開始14日目から経時的に連続測定し,P(生産量),R(呼吸量)およびP/R比の推移を算出した.マイクロコズムのP/R比は,自然生態系のP/R比と同様に1となることが解明されているため,マイクロコズムでのP/R比に及ぼす影響を把握することで,導入種の負荷が及ぼす影響を生態系機能の側面からも予測可能となる. 3.結果および考察 (1)Aeolosoma hemprichi導入系 マイクロコズム内において,最上位捕食者であるA.hemprichiの個体数は1倍量添加した場合,添加直後の培養18日目に増加した.それに伴い捕食者の役割をもつC.glaucoma,Lecane sp.,P.erythrophthalmaの個体数は減少した.しかし,20日目になりA.hemprichiの個体数が減少すると,減少した捕食者3種の個体数は対照系と同程度に回復した.10倍量添加系は添加後,A.hemprichiと直接の捕食被食関係にある緑藻類Chlorella sp.,Scenedesmus sp.が添加前の57%減少した.一方,C.glaucomaの個体数は対照系の5倍程度に増加した.この現象は導入されたA.hemprichiが添加直後から減少していることに起因していると考えられる.A.hemprichiは個体数の減少とともに死骸となる.一方,A.hemprichiに捕食された緑藻類は糞塊となり排出され,細菌類によって分解される.バクテリアはデトリタスの分解とともに増殖し,C.glaucomaはこれらのバクテリアを捕食するため,急激な個体数の増加につながったものと考えられた.機能パラメータであるDOは添加量に伴い活性が増加することが示されたが,P/R比は1付近で安定しており生態系機能が維持されているものと考えられた. (2)Philodina erythrophthalma導入系 ろ過摂食者であるP.erythrophthalmaは1倍量,10倍量添加系共に,いずれの種も系から排除されることはなく,生物間に被食捕食作用および代謝産物が機能しているものと考えられた.また,導入後の緑藻類の減少は10倍量添加系においてChlorella sp.が45%減少したが,Scenedesmus sp.には減少はみられなかった.DOにおいてはA.hemprichi導入系と同様に添加量に伴い活性が増大した. (3)総合討論 A.hemprichiとP.erythrophthalmaを導入種とした結果,A.hemprichi 10倍量添加系のみ緑藻類に捕食効果が機能し,Chlorella sp.,Scenedesmus sp.の個体数を減少させた.ともに最上位捕食者に位置する生物種であるが,A.hemprichiは凝集体摂食性,P.erythrophthalmaはろ過摂食性であることから,摂食方法の違いにより生態系に与える影響に差が生じることが示された.実際のバイオマニピュレーションにおいても食性,生育環境の他に摂食方法の違いについても考慮する必要があると考えられる. 4.まとめ 凝集体摂食者であるA.hemprichiを導入した場合,1倍量では生産者である緑藻類,藍藻類の減少はみられなかったが,10倍量においては添加直後,緑藻類の個体数は半減した.また,ろ過摂食者であるP.erythrophthalmaは10倍量添加系においてChlorella sp.の個体数が45%減少したが,Scenedesmus sp.には効果がみられなかった.このように,アオコや赤潮の原因となる植物プランクトンを制御するためには直接の捕食被食関係にある最上位捕食者の導入を行うこと,各種導入生物の食性を考慮することがバイオマニピュレーションを効率良く行う上で重要であることが示唆された. 本研究に関する主な発表論文 (1) 村上和仁:マイクロコズムシステムによる微生物農薬の生態系リスク影響評価、環境情報科学学術研究論文集、29巻、投稿中 (2015) (2) 村上和仁、五明美智男:モデルエコシステムによる非放射性セシウム(CsCl)の生態影響評価、環境情報科学学術研究論文集、28巻、pp.155-160 (2014) 本研究に関する主な講演発表 (1) K.Murakami, A.Inoue-Kohama:Fate of Microbial Pesticides as Alien Species in Aquifer Ecosystem using Experimental Model Ecosystem, Water and Environmental Technology Conference 2015 (WET2015), 日本大学(東京都)(2015.8.5-6.)(発表予定) (2) 村上和仁、小浜暁子:Gene Biomanipulationを想定した導入遺伝子のマイクロコズムにおける挙動解析、環境バイオテクノロジー学会2015年度大会、東京大学(東京都)(2015.6.29-30.) (3) 林 秀明、村上和仁、小浜暁子:最上位捕食者の導入によるマイクロコズム生態系の攪乱と影響解析、日本水道協会平成26年度全国会議(第65回全国水道研究発表会)、ポートメッセなごや(愛知県)(2014.10.29- 31.) (4) 村上和仁、林 秀明、宮本舜也、小浜暁子:マイクロコズム生態系における最上位捕食者導入による攪乱と影響解析、環境微生物系学会合同大会2014、アクトシティ浜松(静岡県)(2014.10.21-24.) (5) K.Murakami, K.Sugiura, Y.Inamori:Environmental Impact Risk Assessment of Herbicide using iEIRAS based on Experimental Microcosm, IWA 9th World Water Congress & Exhibition (WWC2014), Lisbon (Portugal) (2014.9.21-26.) (6) K.Murakami, Y.Inamori, K.Sugiura:Environmental Impact Risk Assessment of Herbicides using Microcosm System, Water and Environmental Technology Conference 2014 (WET2014), 早稲田大学(東京都)(2014.6.28-29.) 1342015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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