千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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今回は肘の姿勢変動のみに注目し,肘角度は角度センサにより測定できるものとする.ここでは,この肘角度情報を用いて学習モデルを逐次変化させていくファジィ推論型動作識別法を提案し,実験検証を行う. 最初に,肘角度を0度から90度まで変化させながら筋電位の測定を行い,これらの測定データ群を基に,重回帰分析の一種である多項式近似により,ある肘角度における筋電データの中心値を求められるようにしておく.次に,その中心値を中心とした前後のある範囲での測定データの標準偏差を求め,この中心値と標準偏差を用いてファジィ推論モデルを設計する.詳細は省略するが,各電極で中心値に近い筋電位が測定された場合にはその動作である可能性が高いと推論するようなファジィ推論である.このように,リアルタイムに測定した肘角度に応じて学習データの中心値を逐次移動させ対応する手法により,姿勢変動時の動作識別率の向上を図る. 図4に二人の被験者(A,B)の動作識別率を示す.各グラフの識別率は左から順に,①提案手法において現在の肘角度の±30度にある学習データから標準偏差を求めた手法,②提案手法において全学習データから標準偏差を求めた手法,③姿勢変動を考慮せず全学習データからユークリッド距離により識別する手法である.これらの結果から,提案したファジィ推論型識別手法が姿勢変動に対してロバストな識別を可能としていることがわかる. 図4 動作識別率(上:被験者A,下:被験者B) 4. 義手制御時の筋電位信号変動の解析 実際に日常生活において義手を使用する際には,義手で把持した物体や義手本体が使用者にとっての負荷となり,筋電位信号に影響を及ぼす可能性がある.また義手使用を継続することによる筋疲労も信号の変動をもたらすことも考えられる.ここではそれらの影響を検証する。 最初に,負荷が筋電位信号に与える影響を検証するため,二人の被験者(A,B)に対し,0,1,2kgのおもりをそれぞれ負荷として装着させた状態における動作識別率を導く.図5に2kg負荷時においてユークリッド距離により導いた識別率の結果を示す.握る,開く,無動作の3動作を対象としている.おもりなしの際は両者ともほぼ100%の識別率であったが,図に示すとおり2kg負荷時は識別率が低下していることがわかる. 図5 動作識別率(上:被験者A,下:被験者B) また,実際の義手制御時には,各電極における筋電位実効値を総計した値を義手の動作速度,あるいは把持力の指令値とすることが考えられるが,負荷によりこれが変動する可能性があるため,先と同じ被験者により検証する.図6は0,1,2kgの負荷におけるそれぞれの筋電位実効値の総量を表しているが,負荷により変動していることがわかる.つまり,このような筋電位変動を考慮した上で義手制御システムの設計を行う必要があることがわかる. 図6 筋電位信号の実効値総量の変化 5. まとめ 本研究では,筋電義手制御のための前腕部動作認識手法の開発,および義手制御における筋電位変動の解析等を行った.今後はさらに多くの被験者による検証,義手使用者の筋電操作トレーニング方法の開発,さらにこれらの成果を基にして,ロバストかつ人間らしい自然な動きを伴う実用的な筋電義手制御システムの実現を目指していく. 本研究に関する主な発表論文 (1) 関弘和,鈴木一茂:筋電義手制御を目的としたダミー変数型特徴量に基づく高精度動作認識, 日本福祉工学会誌, Vol.16, No.1, pp.26-32, 2014. (2) 山口知也,関弘和:筋電義手制御のための腕姿勢変化を考慮したファジィ推論型動作識別, ロボティクス・メカトロニクス講演会, 2015. ① ② ③ ① ② ③ 1302015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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