千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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光学定数(屈折率、吸収係数、すなわち複素誘電率)が得られ、それぞれ土器ごとに差異や共通点が確認された。図1に算出された吸収係数スペクトルを示す。 土器の違いによる差異がはっきりと表れていることが分かる。また、吸収スペクトルの差異は、主に0.5 THz以上の高周波領域に現れている。それぞれ時代の異なる土器によって特徴のある結果が得られたことから、粘土を構成する成分の違いや、焼成条件の違いによる結晶性の差異などが表れている可能性がある。 (2) 反射分光反射分光系の評価 反射分光では、リファレンスである金属の反射測定を先に行い、サンプルである土器に設置し直して測定するという手順である。その際、リファレンスとサンプルの反射面の位置を全く同じ位置にすることが出来ないという問題が生ずる。反射面の位置ずれは、位相シフトに大きな誤差をもたらすことから、光学定数の算出において重大な影響を及ぼす。そこで、試料の設置位置をステージにより変化させ、サンプル設置位置の誤差の影響を考察した。尚、試料の反射面は、光学遅延に換算して2 psec(距離にして約0.6 mm)ずつ、もしくは、0.1 psec(距離にして約0.03 mm)ずつ変化させた。 反射面のずれによって振幅スペクトルに変化は無いが、位相スペクトルが変化する。このため、光学定数を算出すると大きな違いを生じる。光学遅延を2 psecずつ変化させた場合の算出された屈折率スペクトルを図2に示す。尚、図中では4 psec毎の変化を表示している。 図2 屈折率評価に対する光学遅延の影響 光学遅延が4 psec以上になると屈折率の計算に甚大な問題が発生していることがわかる。屈折率が約1の値を中心として大きく値が振動している。また、光学遅延を0 psecと設定した場合には、一見、屈折率を正しく算出しているようにみえる。しかし、この反射面ずれがない場合でも全体的に屈折率が1前後と低く、これは空気の屈折率とほぼ同じであり、正確に屈折率を算出できていない可能性がある。そこで、光学遅延を0.1 psecずつ変化させた場合の算出された屈折率スペクトルを図3に示す。 反射面ずれを小さくしても屈折率スペクトルに差が出ることがわかる。光学遅延が-0.1~-0.3 psecの場合には屈折率が1を下回っており、屈折率を正確に算出できていない。光学遅延の0.1 psecを距離に換算すると0.03 mmであり、この程度の位置ずれはサンプル設置時に常に生じる値である。従って、サンプル設置による位置ずれの生じない実験系に改善する必要が生じる。 図3 屈折率評価に対する微小光学遅延の影響 (3) チェレンコフ位相整合 励起光源には、基本波の波長1560nm、第2高調波の波長780nm、パルス幅60fsec、平均パワー60mW、繰返し周波数50MHzのエルビウム添加ファイバーレーザーを使用した。基本波と第2高調波を空間的に分離し、基本波をテラヘルツ波発生に使用した。熱式検出器であるシリコンボロメータにより平均パワーを計測し、光伝導アンテナによって発生したテラヘルツ波との比較を行った。 従来型の光伝導アンテナによるテラヘルツ波発生と、チェレンコフ位相整合方式によるテラヘルツ波発生を行い、平均出力の比較を行った。光伝導アンテナ使用時に比べ、10倍以上の出力向上が確認できた。現状の装置では時間波形取得にまで至っていないが、光学系の設定等により出力増強およびスペクトル拡大が可能であり、土器の指紋スペクトルが豊富に存在する可能性のある、1THz以上の高周波領域での測定に展開可能である。 3.まとめ 反射分光により土器種によるスペクトルの明確な違いを計測できた。しかし、反射分光ではサンプル位置設定精度の問題から複素屈折率を正確に計測できなかった。今後は、リファレンス信号取得の必要の無い、テラヘルツエリプソメトリの導入を行っていく必要がある。 本研究に関する主な発表論文 (1) 村瀬岳志、近藤啓司、水津光司、山本直人、テラヘルツエリプソメトリによる土器の非破壊計測、第15回レーザー学会東京支部研究会、2015年3月5日、東海大学(東京都) (2) 近藤啓司、水津光司、山本直人、テラヘルツ波透過および反射分光による土器の非破壊検査、日本文化財科学会第31回大会、2014年7月5~6日、奈良教育大学(奈良県) 0.00.51.01.52.00.500.751.001.251.50 屈折率Frequency [THz] delay -8 ps delay -4 ps delay 0 ps delay 4 ps delay 8 ps0.000.250.500.751.001.251.500.751.001.251.501.75 屈折率Frequency[THz] delay -0.3 ps delay -0.2 ps delay -0.1 ps delay 0 ps delay 0.1 ps delay 0.2 ps delay 0.3 ps1282015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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