千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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(2) プロジェクトにおける個人能力および貢献度の定量化 板垣(2007)では,人的資源能力(HV)の評価は主としてコーディングに関するものである[1].本研究で対象とした講義ではコーディング以外のフェーズに重点があるため,計画立案やドキュメントの作成,対人関係の調整などのコーディング以外の能力評価が必要となる.そこで,コーディング以外のタスクに関する能力評価のため,これらのタスクに関する5件法による質問紙を作成し,このスコアをHVC(Human Value based on Check sheet)とした.HVCにより上流工程における人的資源能力を定量化することが可能となり,総合指標であるHVをもとに能力の推移を測ることが可能となった. (3) 最終成果物の品質基準の定量化 PBLの評価において,成果物およびプロジェクトの品質達成度を評価することは重要であるが,学生主体のプロジェクトに応用するには次の点について検討する必要がある.まず,評価項目の範囲および難易度が学生プロジェクト評価指標として適合であること.次に,プロセス品質とプロダクト品質が明確に分類されていること.更に,品質の達成基準をどこに設定するかという問題である.品質の作り込みはプロジェクトの進行に伴って行われるため,フェーズ単位に到達目標値を設定することが困難である.また,品質基準には当たり前品質と魅力的品質があり,EVM上で品質マネジメントを行うにあたっては,これらの達成基準を定量的に設定する必要がある.本研究では,こうした問題についてチェックリストを用いた手法によって,基準を設定することとした. 品質達成基準設定は,品質チェックリストをベースとし,当該時点における各チームの評価結果に基づいた相対的基準を用いることとした.従って,品質の達成基準はPBLの進行に伴って変化する.品質評価時点におけるチェックリストの結果から,全チームが5段階評価の1(品質基準を全く達成していない)であった評価項目を除外した.残りの評価項目に対して,5段階評価における5を達成基準とした.よって,当該時点における品質達成率はチェックリストの除外項目を除いた累計得点を基準得点で除算した次式によって求められる. 品質達成率(%)={累計得点/基準得点}*100 基準得点:(全評価項目-除外項目)*5 除外項目:当該時点において全チームの評価値が1の項目 これにより履修年度による能力の差異に関わらず,当該年度の相対的指標として品質達成目標を設定することが可能となる.さらに,上記における基準得点は当たり前品質として解釈することもできる. 次に,品質達成率をEVMに導入するためのQVの算出方法示す.EVM上では品質指標は総合指標として統合するため,プロダクト品質とプロセス品質の評価値を次式により総合品質達成率とする. 総合品質達成率(%)= (プロセス品質の累計得点+プロダクト品質の累計得点) /(プロセス品質の基準得点+プロダクト品質の基準得点) さらに,品質出来高評価QV はPVに依存して定量化することとし,次式によって求める. QV=総合品質達成率×PV これによりEVMに新たな指標QVを追加することが可能となり,プロジェクトの進行にともなって品質の作り込みがどのように進捗しているかを測ることができる.ただし,他の指標とことなりQVは相対的基準によるため基準得点が変わることによって,チェックリストにおける累計得点が同じでもQVの値は下がることがある.この点はEVMにおける他の指標の基本的な振る舞い(時間経過に伴って値が減少することは無い)と異なる. 4.結果および考察 図1は調査対象となったPBL(チームF)にHVを導入した結果である. 図1 HVを導入したEVM運用事例(チームF) 図1をPV, AC, EVに基づいて考察すると,当該プロジェクトは4週目まではPVに対するACは低いが,5週目以降はACがPVを上回っている.また,7週目(中間発表)を除いてはEVがPVに達しておらず,計画値を達成できていない状況である.PBLではマイルストーンの直前でEVが急上昇する例は多くみられるが,当該科目ではユーザ役教員の教育的配慮による検収も想定され,学生の能力向上による成果であるのかの識別が必要であった.図1より,7週目にかけてはHV,HEVともに上昇していることから,このケースの場合は能力の向上および能力に合ったアサインの結果による出来高の上昇と考えることができる.このようにHVを導入することによって,EVの上昇が人的資源能力の向上によって達成されたものであるかの識別が可能となった. このようにタスク別に人的資源の調達効率や能力効率をもとに,チームメンバのタスクのアサインが適切であったかを知ることができるため,既存のEVMに比べ新しい視点でのプロジェクトの振り返りが可能となる.また,EVMによって,継続的にPBLの進捗を見ることで, PBLに対するマイルストーンによらない継続的な指導が可能となると考えられる. 参考文献 [1]板垣真悟,鴻巣努,「人的資源能力および調達効率を考慮したEVMによるプロジェクトマネジメント」,人間工学,Vol.44,No.2,pp.59-66,日本人間工学会,2008 [2]小森田淳,「品質の出来高評価を考慮したEVMについての試案」,プロジェクトマネジメント学会研究発表大会予稿集,pp.454-459,プロジェクトマネジメント学会,2007 1262015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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