千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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研究項目: 科研費採択者助成金(最終年度) 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): パッシブサンプラーによる水圏環境中放射性核種の迅速・高精度モニタリング手法の確立 研究者: 〇亀田 豊 千葉工業大学 KAMEDA Yutaka 工学部 建築都市環境学科 准教授 1.はじめに 東日本大災害後,東日本のみならず日本全国で放射性物質の環境中放出と環境中挙動が大きな問題になっている。特に,未だに水生生物から高濃度の放射性セシウムが検出されることが大きな問題になっており,環境中における放射性物質の中長期的な変動の追跡の重要性,中長期的な環境中濃度変動の将来予測に必要な水生生物や水中の懸濁態等への移行係数等の把握及びより低濃度な汚染状況の把握が必要となっている。しかし,現在公共用水域で実施されている河川水中の放射性セシウムモニタリング調査は,検出下限値が1Bq/Lと高いため,ほとんどの調査地点で検出下限値と報告されている。そのため,河川水中放射性セシウム放射能データを利用して,河川水中放射性セシウム将来予測モデルや水生生物体内中放射能予測モデルを開発することは困難となっている。一方,ヨーロッパやアメリカでは環境中の放射性物質の挙動や将来予測可能なモデルがすでに提案されており,特にポーツマス大学のJames Smithは湖沼や河川,海域における水中放射性物質濃度及び生息する魚類体内中濃度について,エクセルでも対応できる簡便なモデルを提案している1)。しかし,これらのモデルも水中溶存態放射性セシウム放射能のモニタリングデータが必要不可欠である。 そこで,本研究室では放射性セシウムを選択的に吸着するセシウムラドディスクとchemcatcher®ホルダーを用いたパッシブサンプラーによる水中溶存態放射性セシウム放射能モニタリング手法を確立し,現在モニタリングデータの収集及び予測モデル開発を行っている。本発表ではパッシブサンプリングによる溶存態放射性セシウム放射能モニタリング手法の紹介と本手法を用いた関東地方を中心とした河川,湖沼水中の溶存態放射性セシウム調査結果について報告する。 2.研究の内容 (1) 確立したパッシブサンプラーによる水中放射性セシウム放射能モニタリング手法 図1に本研究室で確立したパッシブサンプリングによる水中溶存態放射性セシウムのモニタリング方法を示す。本手法では吸着剤としてセシウムを選択的に吸着するエムポアセシウムラドディスク(住友3M社製)を使用し,ポーツマス大学で開発されたパッシブサンプリングホルダーchemcatcher®にセットする。このホルダーを本研究室で開発したケージに入れ,調査水域に数日から1ヶ月程度浸漬する。回収後,ディスクを非破壊のまま,NaIシンチレーションカウンタ-(LB2045,Berthold社)またはゲルマニウム半導体検出器で測定し,吸着した137Cs放射能を測定する(1時間)。一方,現場設置前にディスクに添加した238Uの回収率を求め,その回収率を用いて,本研究室のキャリブレーションテストで明らかにした定量的関係式からon-site sampling rateを求める。最終的ににon-site sampling rate,設置日数,設置枚数,ディスクの放射能から,設置期間の平均溶存態137Cs放射能(Time-Weighted Average concentration (TWA): Bq/L)を求めることができる。なお,この手法の検出下限値は3枚のディスクを一ヶ月設置した場合,約数mBq/Lである。なお,NaIシンチレーションはディスク試料測定用にキャリブレーションした。 (2)グラブサンプリング手法と比較したパッシブサンプリング手法の精度評価 確立したパッシブサンプリング手法によるTWAの測定精度を確認するため,千葉県大堀川にて5日間に渡るパッシブサンプリング及び連続グラブサンプリング調査を行った。グラブサンプリングは24時間ごとに計5回行った。Fig. 2に示すように24時間ごとのグラブサンプリング結果は降雨による影響で大きく変動した。しかし,パッシブサンプリングにより得られたTWA(83.9 mBq/L)は5日間のグラブサンプリングの平均値(81.4 mBq/L)とほぼ同じ値となった。したがって,238UをPRCとしてTWAを推定する本パッシブサンプリング手法は,実際の河川においても従来のグラブサンプリング法と同程度の精度でモニタリングできることが明らかとなった。パッシブサンプリング法はグラブサンプリング手法では把握が困難な時間平均濃度や数十mBq/Lといった低濃度の137Cs放射能を短時間で測定可能なメリットがあり,今後の活用が期待される。 P-01<TWA推定式>設置期間における時間平均河川水中137Cs放射能(Bq/L)=ディスク放射能(Bq)/設置期間(日)/設置枚数/on-site sampling rateon-site sampling rate=2.8/設置期間/ln(C0/C)(C︓回収時のディスク中238U量,C0︓設置前に添加した238U量)(Kameda, et al.,in preparation)<TWA推定式>設置期間における時間平均河川水中137Cs放射能(Bq/L)=ディスク放射能(Bq)/設置期間(日)/設置枚数/on-site sampling rateon-site sampling rate=2.8/設置期間/ln(C0/C)(C︓回収時のディスク中238U量,C0︓設置前に添加した238U量)(Kameda, et al.,in preparation)EmporeTMCesium RadDisk 47mmChemcacther(holder)Nadeshiko(NADES)(cage)NaIシンチレーションカウンター設置期間における溶存態137Cs時間平均濃度Time Weighted Average concentration (TWA) 設置期間における溶存態137Cs時間平均濃度Time Weighted Average concentration (TWA) 数日から数か月設置1時間1時間P-01<TWA推定式>設置期間における時間平均河川水中137Cs放射能(Bq/L)=ディスク放射能(Bq)/設置期間(日)/設置枚数/on-site sampling rateon-site sampling rate=2.8/設置期間/ln(C0/C)(C︓回収時のディスク中238U量,C0︓設置前に添加した238U量)(Kameda, et al.,in preparation)<TWA推定式>設置期間における時間平均河川水中137Cs放射能(Bq/L)=ディスク放射能(Bq)/設置期間(日)/設置枚数/on-site sampling rateon-site sampling rate=2.8/設置期間/ln(C0/C)(C︓回収時のディスク中238U量,C0︓設置前に添加した238U量)(Kameda, et al.,in preparation)EmporeTMCesium RadDisk 47mmChemcacther(holder)Nadeshiko(NADES)(cage)NaIシンチレーションカウンター設置期間における溶存態137Cs時間平均濃度Time Weighted Average concentration (TWA) 設置期間における溶存態137Cs時間平均濃度Time Weighted Average concentration (TWA) 数日から数か月設置1時間1時間Fig. 1 Flowchart of passive monitoring method to measure 137Cs radioactivity in dissolved phase (Kameda (2013) in preparation) 1232015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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