千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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2. 研究の内容 HApを硝酸に溶解させた水溶液に,尿素および非イオン性界面活性剤であるF127を加え, 室温で24 hかくはんを行うことで前駆溶液を調製した.リン脂質にコレステロールを添加し,クロロホルムに溶解させた後,窒素ガスを用いてクロロホルムを揮発させ,24 hの減圧乾燥を行うことで,容器の内壁にリン脂質薄膜を形成させた.その後,前駆溶液を加え,ボルテックスミキサーで撹拌し,リポソームを調製した.リポソームに内包されていないバルク中のカルシウムイオンなどを除去するために,得られた溶液を透析膜に入れ,1日ごとに超純水を入れ替えることで透析を行った.その後,100 ℃, 6 hで水熱処理を行い,尿素からアンモニアを生成し,リン酸カルシウムの晶析反応を進行させた.得られた試料を遠心分離,エタノール洗浄,超音波処理を行った後,リポソーム及びF127を除去するため650 ℃,12 hで焼成を行った. まず,透析における溶液の電気伝導度測定を行った.透析開始から2日目の電気伝導度は540 μS/cmであったのに対し,4日目では5.16 μS/cmとなった.純水の電気伝導度が1.06 μS/cmであることから,4日間の透析により,リポソームに内包されずにバルク中に存在するカルシウムイオンなどが除去されていることがわかった. つぎに4日間の透析を行った試料を用いてリン酸カルシウムの合成について検討した.水熱処理により得られた粒子のFT-IRスペクトルにおいて,PO4およびF127に帰属されるピークがそれぞれ観測された.また,FE-SEM像から球状粒子が形成していることが明らかとなった.この結果は,水熱処理後に得られた粒子は球状リン酸カルシウム/F127複合粒子であることを示唆する.一方,焼成後に得られた試料のFT-IRスペクトルにおいては,リポソームおよびF127に起因するピークが消失していたことから,複合粒子から除去されていることが明らかとなった.図. 2に焼成後に得られた粒子のFE-SEM像を示す.直径2-70 μm程度の球状粒子が観察され, 球状構造は維持されていることが確認された. 最後に,得られた粒子の多孔体としての特性を評価するため,窒素吸脱着測定を行った.メソ孔の存在を示すV型の等温線が観測された.さらに,BJH法を用いて細孔径分布を求めたところ,約2 nmの細孔が存在することがわかった.以上の結果より,複合有機テンプレート法を用いることで,多孔質球状リン酸カルシウム粒子が得られることが明らかとなった. 3. まとめ 本研究では,リポソームを粒子に球状構造を付与するための鋳型に,界面活性剤を粒子に多孔質構造を付与するための鋳型に用いたHOT法の提案を行い,多孔質球状リン酸カルシウム粒子の合成について検討を行った.その結果,約2 nmのメソ孔を有する球状リン酸カルシウム粒子の合成に成功した. 今後は,得られた多孔質球状リン酸カルシウム粒子の生体分子の分離剤への応用などについて検討を行う予定である. 本研究に関する学会発表 (1) Hikaru Endo, Masako Takeyoshi, Hirobumi Shibata, Kenichi Aburai, Hideki Sakai, Masahiko Abe, Kazuaki Hashimoto, Preparation of spherical silica particles using liposomes as a template, 20th International Symposium on Surfactants in Solution, Coimbra, 2014 (2) 山口達彦,遠藤光,柴田裕史,橋本和明,複合有機テンプレート法を用いた球状リン酸カルシウム粒子の調製,第65回コロイドおよび界面化学討論会,新宿,2014 (3) 遠藤光,山口達彦,柴田裕史,橋本和明,複合有機テンプレート法を用いた球状無機粒子の調製,2014年度色材研究発表会,名古屋,2014 図2 リン酸カルシウム粒子のFE-SEM像 1222015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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