千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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を行う。卓球では経験者から未経験者までを均等にグループ分けし、全員がレベルアップするために「教えあい、学びあい」を行う。経験者はアドバイス、リーダーシップを発揮し、未経験者は受け身ではなく自ら修得したいスキル、戦術を獲得できるようにアドバイスを求める。サッカーでは最終的にはフルコートで11人制公式ルールでの実施をめざすが、その過程では経験者から未経験者まで全員が積極的に関与できるように内容を議論して決定する。 いずれも他者とのやり取りが必要になり、さまざまな価値観、身体能力の受講生がいる大学体育授業においては、意見の衝突が起きることが期待できる。その際感じたこと(自分の意見の反応に対する感情、他者の意見に対する感情など)について反省的に考察する。 2-2.学際的プログラム このプログラムでは特定の研究領域に限定されない超領域的なテーマから授業を構想し、そのテーマに対してさまざまな視点からアプローチする。フラッグフットボールとスノースポーツについて、複数の領域の教員(哲学、社会学、法学、物理学、化学、文学、機械工学、体育)が、テーマと関連づけた講義を行うが、従来の学問領域ではとらえきれないところに、近代的な知を超える可能性を見出すことを試みる。 2-3.意識と身体(行動)のずれに関する研究プログラム スノースポーツ時におけるホワイトアウト状態では、急斜面でも滑走可能となる。翌日視界良好の状態では恐怖心から滑走不可能となる。このように恐怖心などのさまざまな感情等が身体活動に影響を与える。これは意識というより無意識が関係する。意識と行動のずれについて動作解析、心拍計、筋電計などを用いて分析し、実際のスポーツ場面に応用することで、「身体知」について考察する。 2-4.複数大学の共同教育プロジェクト 中央教育審議会(2002)「新しい時代における教養教育の在り方について(答申)」では「複数の大学の共同による教育プロジェクトに対する支援:新たなカリキュラムの体系の構築、先進的な授業方法の研究開発などの教育課題に対し、複数の大学が共同して取り組む教育プロジェクトに対する積極的支援が求められる」と指摘している。本研究ではこれを受け、小中学校の教材として注目されるフラッグフットボールを複数の大学で実施し、他大学の学生との交流、意見交換を通じ、教材としての特性や課題、感情について反省的に考察する。 3.まとめ 本研究で実施するプログラムによって、受講生は身体活動を行う際に、ありのままの感情や本音を言い合う。その実践自体を反省的に記述することで考察する。これによって従来教育から排除されてきた否定的な感情を含む感情に気づくことが可能になる。受講生が感じたことから実践の中に埋め込まれた理論を抽出することで、近代的な知・科学を乗り越える手がかりを得ることを目指す。 現代社会は人間の生(欲望)の無限の拡張をもたらしたが、これが限界を迎えていること、資本主義に代わる新しいシステムの構築が必要であるが、本研究はその一歩となることが期待できる。これまでの成果から推察すると、受講生は自分の専門以外の視点から物事に対する興味・関心を抱き、課題探究を行うことが予想される。否定的な感情があることを含めて、自分の感情や他者の感情に対する理解が深まることが予想される。 本研究に関する主な発表論文 森田啓(2014)、新自由主義を変革する体育の可能性、体育・ スポーツ哲学研究、第36巻1号、pp.1-12. 参考文献 釜崎太(2013)、スポーツ教育から身体教育へ、体育科教育 2013年9月号、pp.14-17. 慶應義塾大学教養研究センター編(2008)、身体知プロジェ クト研究報告会「体をひらく、心をひらく」. 鈴木守(2007)、大学教育における「身体知」を求めて、ソ フィア223号、p.399. 徳山郁夫(2002)、ヒューマニティな身体観に根ざした教養 教育、体育原理研究32号、pp.83-86. 森田啓他(2007)、スノーボードを用いた教養教育、大学教 育学会誌、第29巻2号、pp.145-150. 森田啓他(2007)、教養教育としての大学体育の試み:学生 が運営する授業、体育・スポーツ哲学研究、第29巻2号、 pp.151-164. 森田啓他(2008)、大学体育は「健康」を学習目標にすべき か、大学教育学会誌、第30巻2号、pp.129-135. 森田啓他(2009)、教養教育としての大学体育:サッカーを 事例に、大学教育学会誌、第31巻1号、pp.162-171. 森田啓他(2010)、研究活動への動機づけとしての大学体育、 大学教育学会誌、第32巻1号、pp.129-133. 森田啓(2014)、新自由主義を変革する体育の可能性、体育・ スポーツ哲学研究、第36巻1号、pp.1-12. 1142015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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