千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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動作周波数1 MHz(15W)時の電圧と電流の波形を図2に示す.ドレイン-ソース間電圧Vdsについては,大きくオーバーシュートが発生しており, 最大26 Vまで達していることが確認できる. これは入力電圧Vinの約2倍に相当する.またサージ電圧の発生に伴う振動現象(約10.6 MHz)が観測された. このようなリンギング現象が生じる理由はMOSFETの寄生容量と線路の寄生インダクタンスの影響であると考えることができる また最後に,VdsおよびIdの掛け算からスイッチング損失は0.55 Wであると見積もられた. 図2. 1 MHzスイッチング時の電圧,電流波形 また図1では,高周波動作を行った際の動作点の軌跡(図中,赤線で示す)をMOSFET の静特性に重ねて示している.ターンオン時は軸に沿った軌跡を描いており, 損失が小さいが, それと比べターンオフ時は軌跡がサージ電圧により大きく膨らんでおり, 大きな損失が発生していることが確認できる. このことからターンオフ時の損失がスイッチング損失の大半を占めていることが実験的に確認される. 5. まとめと今後の課題 本研究報告では,スイッチング電源回路に用いられるバルブデバイスとして,SiC製パワーMOSFETに着目し,それらの静特性および動特性に着目して評価を行った. まず静特性評価からはワイドギャップ半導体材料デバイスの特長である導通損の低減が確認された.続いて,描かれるスイッチング軌跡から見積もられるスイッチング損失は,静特性には一切現れない評価指標であることから,その重要性を理解しておく必要がある.特にSiC製パワーデバイスでは大きなサージ電圧の発生に伴うと考えられる損失増大が実験的に確認され,またリンギング現象がパワーMOSFETの寄生容量(特に帰還容量)に依存していることも合わせて確認された. さらなる電力変換効率の向上のためには,パワー半導体デバイスとしてのバルブデバイスだけではなく,整流作用を有するダイオード,そして回路構成に伴う寄生成分を含めた回路設計指針を確立していく必要がある. 今後の課題として,このようなスイッチング損失を抑制するためには,まずサージ電圧を抑制するためのスナバ回路における損失抑制の必要がある.つまり,サージ電圧の発生要因と考えられるMOSFETの寄生インダクタンスを可能な限りケアして,最小化することが肝要であることが確認された.さらにソフトスイッチング技術の導入による,極限的なスイッチング損失の抑制についても検討を重ねていく必要がある. 本研究に関する主な発表論文 (1) N. Satoh, K. Kobayashi, S. Watanabe, T. Fujii, K. Matsushige, H. Yamada, "Scanning near-field optical microscopy system based on frequency-modulation atomic force microscopy using a piezoelectric cantilever", Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 53, 125201 (2014). (2) 佐藤宣夫,山本秀和,「SiCパワーMOSFETの静特性/動特性」,千葉工業大学研究報告, 理工編第62号, pp. 23-27 (2015). 参考文献 (1) H. Ohashi, I. Omura, S. Matsumoto, Y. Sato, H. Tadano, and I. Ishii: “Power Electronics Innovation with Next Generation Advanced Power Devices”, IEICE trans. on Comm., Vol. E87-B, No. 12 2004: 3422-3429. (2) D. Murthy, M. K. Kazimierczuk : “Performance evaluation of flyback converter”, Proc. Electrical Insulation Conference and Electrical Manufacturing Expo 2005 : 408–416. (3) J. Biela, U. Badstuener, J. W. Kolar : “Design of a 5kW, 1 U, 10 kW/dm3 Resonant DC-DC Converter for Telecom Application”, IEEE Trans. on Power Electronics 2009; 24(7): 824–831. (4) 電気学会半導体電力変換システム調査専門委員会編: 「パワーエレクトロニクス回路」,オーム社,(2000). (5) 須田 淳 : 「ワイドギャップ半導体の研究 : グリーン・エレクトロニクス」CQ出版社 (2012) (6) 山本秀和:「パワーデバイス」コロナ社 (2012) 942015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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