千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2015年版
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研究項目: 科研費採択者助成金(初年度) 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): 大気圧ハイドロカーボンプラズマ支援CVDによるDLC成膜技術開発に関する基礎研究 研究課題名(英文): Fundamental Study on Development of Diamond-Like Carbon Coating Technique Using Chemical Vapor Deposition Enhanced by Atmospheric Pressure Nonthermal Hydrocarbon Plasmas 研究者: 小田 昭紀 千葉工業大学 ODA Akinori 工学部 電気電子情報工学科 教授 1.はじめに ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-Like Carbon; 以下DLC)膜は,高硬度,低摩擦,耐摩耗といった優れた機械的特性を有するため,自動車,金型,工具などにおいてDLC膜の利用が拡大しつつある(図1参照).しかしながら,DLC成膜速度の低さに起因する高コストがネックとなり,DLC膜応用の潜在的な市場の一部しか顕在化していない.その際,世界的競争環境にある自動車業界などを中心に全面的に採用するには,従来の成膜速度をはるかに上回る超高速成膜(>100 m/h)が強く要請されている.その際,DLC成膜方法としては,プラズマ支援化学気相堆積(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition; 以下PECVD)法が多く利用される.このPECVD法は,気相中で低ガス圧のグロー放電プラズマを生成し,プラズマ中の高エネルギー電子を利用して低温下で原料ガスのハイドロカーボン(炭化水素)ガスを効率的に分解し生成されるハイドロカーボンラジカル(化学的活性粒子)やイオンをDLC成膜の材料源として基板上へ供給させる方法である. 本研究では,上記自動車業界を中心した産業界からの超高速・硬質DLC成膜に対する要請に応える手法として,〔1〕低ガス圧プラズマ生成時に必要な真空装置が不要,〔2〕従来の低圧プラズマと比較して高い化学的反応性を有する,〔3〕電極に対し径方向均一なプラズマが生成可能,これら特徴を有する大気圧プラズマ支援CVD法に着目し,DLC成膜源である大気圧ハイドロカーボンプラズマのもつ基礎特性を実験およびシミュレーション両面から調査・解明の上,超高速・硬質DLC成膜のための制御指針を見いだすことを目的とし研究を遂行している. 初年度である2014年度においては,DLC成膜用ハイドロカーボンプラズマのシミュレーションモデル構築およびその解析(1)-(4),そして実験系構築を行った. 本稿では,前者のハイドロカーボンガス(本稿では,Si含有DLC成膜用のテトラメチルシラン(以下,TMS))中で生成されるDLC成膜用プラズマのシミュレーションから得られた成果の一部を紹介する. 2.DLC成膜用ハイドロカーボンプラズマのモデル化 本研究では,プラズマシミュレーションを行うためのモデルとして,疑似熱平衡近似に基づく流体モデルを適用した.本流体モデルを構成する支配方程式は,数密度連続の式,ポアソンの式,電子エネルギー保存式が挙げられる.図2にDLC成膜用ハイドロカーボンプラズマのシミュレーションモデル図を示す.本図から,1 cmのギャップが空いた平行平板電極間にTMSガス(0.2-2 Torr, 300 K)が封入されており,両電極間にRF(13.56 MHz)電圧が印加されることによって金属電極の径方向に均一なハイドロカーボンプラズマが生成されるとした.このことは,プラズマ中の粒子密度や電子エネルギー,電位(電界)が電極間方向にのみ変化することを表す.その際,本研究で考慮したTMSプラズマ中の粒子種は,TMSガス,電子,TMS由来の16種の正イオンとした.反応過程としては,上記粒子種による電子衝突(励起,付着,電離)と電子-イオン再結合を考慮した. 自動車部品切削工具時計PETボトル 図1 ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜の応用例 912015 千葉工業大学附属研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2015    

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