千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 三元Tl系化合物TlMeX2(Me:Ga, In, X:S, Se, Te)は低次元構造をもち,電気特性,熱電特性に特異な特性を示すため大きな関心を集めている1, 2).加えて,この化合物の特性は温度変化によって強誘電相へ転移することを示しており3, 4),半導体材用への応用が期待されている.さらにTl系化合物の一つであるTlInSe2において光照射による光誘起メモリ効果5) ,巨大体積膨張6) および室温での強大な音響パルス生成 6,7)などが報告されている.しかし,これらの特性の起源は,まだ十分に明確にされていない. 光第二高調波発生(SHG)は中心対称性をもたない材料において起こるため,SHG法は結晶構造を評価するための有効な手法の一つである.TlInS2,TlGaSe2などの層状TlMeX2は室温において空間群62hCであり結晶構造は中心対称性をもつ.しかし,結晶構造の中心対称性は強誘電相転移の温度で著しく低下しており,強誘電相である空間群32Cとなったときに中心対称性は失われる.TlInSe2やTlGaTe2のような鎖状TlMeX2の場合はより複雑になる.室温での空間群は184hDであり室温付近の温度領域で相転移が起こる可能性はあるが8,9),どちらも相転移の原因については,はっきりと解明されていない.これらのことから,SHGの温度依存性測定はTlMeX2の結晶構造の評価に有効であると考えられる. 今まで層状結晶であるTlInS2のSHG測定についていくつかの報告10, 11)がなされてきたが,我々の研究ではこれまで層状結晶であるTlInS2,TlGaSe2の他に鎖状結晶であるTlInSe2,TlGaTe2において共焦点レーザー顕微システムを用いて反射型SHGの温度依存性の測定を行い,温度変化による構造相転移時の結晶構造の中心対称性の変化の観点から議論を行った.今回はTlGaSe2の偏光特性から強誘電相(コメンシュレート相)における結晶構造について検討した. 2.実験方法 SHG測定に使用したTlMeX2の試料はブリッジマンストックバーガー法により製作されたバルク単結晶である.各試料はクライオスタットに取り付け,励起光源としてTi:sapphireレーザーのレーザー光(パルス幅100 fs,波長850nm)を試料表面に照射し反射光をCCDによって検出した.測定温度の範囲は77-325Kである.図1に用いた共焦点顕微鏡システム測定系の概略図を示す. 図1 測定系の概略図 3.結果と考察 SHGは結晶対称性に依存する.ノーマル(N)相は中心対称性をもつためSHGは起こらないが,コメンシュレート(C)相では非中心対称性であり,SHGが起こる.TlGaSe2は,C相からIC相に変化する温度Tcは107K,IC相からN相に変化する温度Tiが120Kと報告されている12).図2に TlGaSe2のSHGの温度依存性を示す.温度の上昇によりTc付近でSHGの信号が消滅していることがわかる. 研究項目: 科研費採択者助成金(最終年度),科学研究費(基盤研究(C)) 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 光第二高調波発生によるタリウム系化合物のナノ空間変調構造の評価 研究課題名(英文): Evaluation of nano-fluctuational structure by optical second harmonic generation in Tl compounds 研究者:(○;研究代表者) ○脇田 和樹千葉工業大学 三村 功次郎 大阪府立大学 WAKITA Kazuki 工学部 電気電子情報工学科 教授 MIMURA Kojiro 工学研究科 数理工学分野 准教授 沈 用球 大阪府立大学 パウカル ラウール 千葉工業大学 SHIM YongGu 工学研究科 電子物理工学分野 助教 PAUCAL Raul 工学研究科 工学専攻 博士後期課程大学院生萩原 将史 千葉工業大学 HAGIWARA Masashi 工学研究科 電気電子情報工専攻 修士課程大学院生 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      84

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