千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 現在広く普及しているH.264/AVCやJPEGは高効率な画像圧縮符号化が可能であり,また最新の国際標準H.265/HEVCでは,H..264/AVCの2倍の符号化効率を達成可能と言われている.しかし,さらなる超高圧縮を達成しようとすると現状の「予測+周波数変換」という枠組みでは限界があり画像劣化を避けることはできない.特に複雑なテクスチャ領域には大きな情報量が生じて問題となるため,我々は先に,テクスチャ合成とポアソン画像合成を利用した手法を提案した[1].しかし,ポアソン画像合成において膨大な処理時間が掛かってしまうという欠点があった.本稿では,ポアソン画像合成を高速化することで,符号量とともに処理時間を大幅に削減可能とする手法を提案する. 2.テクスチャ合成画像符号化の概要 図1に符号化および復号処理全体の流れを示す.符号化側では,入力画像をテクスチャ領域と非テクスチャ領域に分割し,非テクスチャ領域を表すマスク画像を生成する.非テクスチャ領域については通常のJPEGで符号化する.一方,テクスチャ領域については,領域内から後述する手法によって小さなパッチを取り出してパッチ領域のみをJPEG符号化する.また,テクスチャ/非テクスチャ領域を区別するマスク画像を作り符号化する.復号側ではまず非テクスチャ領域を復号する.次にパッチを復号し,復号パッチを入力画像と同じサイズまで合成拡大する.マスク画像に基づいて,合成拡大されたテクスチャをポアソン画像合成[2]を利用して該当する領域に貼り付ける.以下,処理の詳細を述べる. 3.符号化側での処理 符号化側においては,まず領域分割を適用して,テクスチャ領域とそれ以外の非テクスチャ領域に分割し,非テクスチャ領域を示すマスク画像を生成する.ここでマスク画像に対して膨張処理を行い,境界付近が非テクスチャ領域となるように変更する.非テクスチャ領域は従来のJPEG符号化を施し符号化伝送する.次に,テクスチャ領域から,顕著性マップ[3]を用いて最も非顕著なブロックをパッチとして抽出しJPEG符号化する.顕著性マップとは周辺領域との違いを検出して,人間の目の向きやすい領域を検出する手法である.また,原画像の大局的変動を表現するために,テクスチャ領域内における顕著性の高いブロック(高顕著ブロック)をテクスチャ領域から除外し,JPEG符号化する.マスク画像は境界線のみを取り出してチェイン符号化を適用する.加えて,高顕著ブロックの位置情報,各パッチに対応するテクスチャ領域の代表座標値を符号化する. 4.復号側での処理 復号側においては,まずJPEG符号化されている非テクスチャ領域および高顕著領域をデコードする.次にパッチをデコードし,デコードされたパッチに対してパッチベースでのImage Quilting[4]を用いて原画像と同じ大きさになるまで合成拡大する.Image Quiltingはパッチベースでのテクスチャ合成手法で,パッチ間での境界領域で最小コストパスを計算してつなぎ合わせることで,境界部分に違和感なくテクスチャ合成する手法である.合成されたテクスチャを,ポアソン画像合成を利用して,対応するテクスチャ領域に貼り付け処理を行う.ポアソン画像合成は貼り付ける画像のテクスチャを維持しつつ,貼り付け先の色味に似せることで自然な画像合成を行う手法である.これにより貼り付け境界部分に視覚的に違和感のない画像が復号できる.しかし,原画像サイズのままポアソン画像合成を行うと計算コストが膨大となる.このため,合成元および合成先の画像を縮小してポアソン画像合成を行った後に拡大処理を行う,拡大の際には補間処理が必要であるが,バイキュービックなど通常の手法ではボケが発生してしまう.そこで,縮小前画像の勾配情報を利用した非線形拡大[5]を導入し合成画質の劣化を抑えつつ処理時間の高速化を図る. 5.実験と考察 図2に実験結果の一例を示す.高顕著ブロックを考慮す研究項目: 科研費採択者助成金(初年度) 研究期間: 2014/4/1 ~ 2015/3/31 研究課題名(和文): 顕著性マップとポアソンブレンディングを用いたテクスチャ合成画像符号化に関する研究 研究課題名(英文): A New Image Coding Method with Saliency-based Texture Synthesis and Poisson Blending 研究者: 八島 由幸 千葉工業大学 YASHIMA Yoshiyuki 情報科学部 情報ネットワーク学科 教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      79

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