千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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年以上の被験者の評価値はほぼ同一と考えられた. これより,ST経験5年未満の被験者とSTを目指す学生を初心者群,ST経験5~10年とST経験 10年以上の被験者を熟達者群,および未経験者群の3群に分けて検討することにした.また,聴覚心理的評価値と音響パラメータの関係に関する検討は,両者の相関図から相関係数と近似直線を求め,これを用いて行った. 検討の結果,尺度法による評価は,3群とも評価値と音響パラメータNNEb間の相関係数が最も高い結果になった.この結果から,尺度法による嗄声の評価では主にNNEbを評価の手がかりとしているのではないかと考えられた. また,評価値と相関値が高い音響パラメータの個数に注目すると,その数は未経験者群,初心者群,熟達者群の順に多くなる傾向がみられた.このことから,尺度法により嗄声の評価を行う場合,嗄声評価の経験年数が長くなるほどより多くの音響パラメータを用いて評価しているのではないかと考えられた. さらに,相関図から得られた近似直線に注目すると多くの音響パラメータで図1に示すように未経験者群,初心者群,熟達者群の順に近似直線の傾きが急になっていくことが観測された.これは,嗄声評価の熟達度が増すに従い音響パラメータの僅かな違いでも適切な評価ができるようになっている結果ではないかと考えられた. 020406080100020406080100尺度法による評価値(mm)NNEb (%)未経験者初心者熟達者 図1 尺度法による評価値と音響パラメータNNEb の相関図から得られた近似直線 次に,GRBAS尺度による評価結果と音響パラメータの関係について検討すると,評価値Gと音響パラメータ間の相関係数は,初心者群と熟達者群間でほとんど差が認められなかったが,評価値BやRでは初心者群に比べ熟達者群では高い相関値を持つ音響パラメータが多くみられた. このことから,評価値BやRでは熟達者群は,初心者群に比べより多くの音響パラメータに注目して評価を行っているのではないかと考えられた.さらに,GRBAS尺度による評価値と音響パラメータの相関図から得られた近似直線の傾きについて検討すると図2に示すように熟達者群より初心者群の近似直線の傾きは全ての評価値で急になっていることが観測された.このことから初心者群は,熟達者群に比べ音響パラメータの変化に対して過大評価をする傾向があるのではないかと考えられた.さらに,近似直線のy軸切片(評価値)に注目すると全ての近似直線において初心者群より熟達者群の評価値が大きい値を示すことが観測された.これから,熟達者群は初心者群では気付かないような僅かな音響パラメータの変化を敏感に感じ取って評価を行っているのではないかと考えられた. 01230510152025Rough APQ(%)初心者熟達者 図2 粗糙性Rの評価値と音響パラメータAPQの相関図から得られた近似直線 5.まとめ 嗄声の音響分析と聴覚心理的評価実験の結果から尺度法による評価では,全ての被験者群において音響パラメータNNEbが最も大きな評価手がかりになっていることや嗄声評価経験年数が長くなるほど音響パラメータの僅かな違いでも適切な評価ができるようになっている可能性が示唆された.また,GRBAS尺度による嗄声評価では,評価項目RやBにおいて熟達者群は初心者群に比べ,より多くの音響パラメータに注目して評価を行っている可能性があることや初心者群は,熟達者群に比べ音響パラメータの変化に対して過大評価をする傾向があることに加え,熟達者群は初心者が気づかないような僅かな音響パラメータの変化を敏感に感じ取って評価を行っている可能性が示唆された. 以上の研究結果を基に次年度では,効果的な聴覚心理的評価の訓練・学習方法の提案を行うとともに病的音声のうち,舌や歯,軟口蓋,顎などの構音器官の疾患に起因する構音障害音声の評価に関しても嗄声と同様に検討を行ってゆく予定である. 参考文献 1) 阿部博香, 米川紘子, 太田文彦, 今泉敏, "嗄声の聴覚心理的評価の再現性", 音声言語医学 27(2), pp. 168 - 177, 1986 2) Eiji Yumoto and Hiroshi Okamura, "Objective assessment of hoarseness: Psychophysical measurement and acoustic analysis", Journal of the Acoustical Society of Japan (E) 5 (3), pp. 157 - 163, 1984 3) 阿部博香, 米川紘子, 太田文彦, 小池靖夫, "嗄声の聴覚2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      77

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