千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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は2 nm程度のメソポーラス材料を調製するためのテンプレートに用いる。本研究では,内水相にカルシウムイオン,リン酸イオン,尿素および界面活性剤を含む水溶液を含む生体適合性の高いリン脂質からなるリポソームを調製し,HOT法による球状多孔質リン酸カルシウム粒子の調製を行うことを目的とした。 2.実験方法 2.1 リン酸カルシウム前駆溶液の調製 リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO4・2H2O)と水酸化カルシウム(Ca(OH)2)をそれぞれリンおよびカルシウム源として用い,Ca/Pモル比が1.67になるように調合した。この調合した原料を,めのう乳鉢を用いて1時間乾式混合し,1200℃,24時間の焼成を行った.焼成した粉末0.05 gを,非イオン性界面活性剤であるF127 0.05 g,尿素1.0 gおよびHNO3(69.0 %)0.5 mlとともにイオン交換水5.0 mlに加え,焼成した粉末が完全に溶解するまで室温でかくはんした。得られた溶液を,前駆溶液とした。 2.2 リポソームの内水相を反応場としたリン酸カルシウム粒子の調製 リポソームを構成するリン脂質に卵黄ホスファチジルコリン(EPC:純度95 %)を用いた。リポソームの調製にはバンガム法を用いた。まず,20 mgのEPCをクロロホルムに溶解させた。この溶液から,窒素ガスを用いてクロロホルムを揮発させ,容器の内壁にEPCの薄膜を形成させた。このEPCの薄膜からクロロホルムを完全に除去するために,24 hの減圧乾燥を行った。その後,前駆溶液1.29 mlを添加し,ボルテックスミキサーでかくはんした。バルク中に存在するカルシウムイオンなどを除去するために,得られた溶液を透析膜に入れ,電気伝導度を測定しながら,1日ごとに超純水を入れ替えることで透析を行った。その後,100℃,6時間の水熱処理を行うことで,尿素からアンモニアを生成し,リン酸カルシウムの晶析反応を進行させた。得られた試料は,SEM観察およびEPMAによる元素分析により評価した。 3.結果および考察 まず,透析時における溶液の電気伝導度測定を行った。透析開始から2日目の電気伝導度は130 S/cmであったのに対し,日数経過とともに電気伝導度は減少し,4日目では1.30 S/cmとなった。純水の電気伝導度が1.06 S/cmであることから,4日間の透析を行うことで,リポソームに内包されずに,バルク中に存在するカルシウムイオンやリン酸イオンなどが除去されていることが分かった。 次に,4日間の透析によりバルク中のイオンが除去されたリポソーム溶液に水熱処理を行うことで,リポソーム内水相を反応場としたリン酸カルシウムの合成をこころみた。得られた試料のSEM像を図1に示す。直径10 m程度の球状の粒子が観察された。EPMAによる元素分析では,球状の粒子の部分にCaおよびPの存在が確認された。これらの結果は,得られた球状粒子がリン酸カルシウムであることを示唆する。透析時における電気伝導度の測定結果は,バルク中のイオンが除去されていることを示していることから,この球状粒子はリポソーム内水相で形成したと推測される。以上の結果から,リポソームの内水相を反応場として用いることで,リン酸カルシウム球状粒子の合成が可能であることが分かった。また,得られた粒子はリン酸カルシウム/界面活性剤複合粒子であることが分かった。 図2 得られた粒子のSEM像 4.まとめ 本研究では,生体適合性の高いリン脂質からなるリポソームをリン酸カルシウム粒子に球状の構造を付与するための鋳型に用いたHOT法による,球状多孔質リン酸カルシウムの合成について検討を行った。その結果,球状のリン酸カルシウム/界面活性剤複合粒子の調製に成功した。今後は,得られた複合粒子から界面活性剤の除去を行い,多孔質化について検討を行う予定である。また,リン酸カルシウムだけでなく,形成反応の制御が比較的容易なシリカなどの他の無機酸化物についても同様に検討を行い,球状多孔質粒子調製におけるHOT法の有用性について証明していきたいと考える。 10 m 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      75

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