千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに ハイドロキシアパタイト(HAp)に代表されるリン酸カルシウムは生物の骨を形成する主成分であり,自家骨と置換する生体適合性セラミックスとして良く知られている。そのため,合成方法に始まり,in vivoおよびin vitroにおける細胞試験なども含めて多岐に渡り研究が行われている材料である。特に「多孔質リン酸カルシウム粒子」は,ドラッグデリバリーシステムのキャリヤーや骨補填材料,生体分子の分離剤などへの応用が可能な新規な生体材料として注目を集めている。しかし,リン酸カルシウムの合成ではpHを調整するためのアンモニアなどの添加を行うと,ただちにリン酸カルシウムの晶析反応が進行してしまうため,得られる粒子の形状は角を有する構造となり,最悪の場合にはアスベストと類似した影響を生体に与えることとなる。そのため,構造的に安全性の高い球状リン酸カルシウム粒子の合成が望まれている。 一方、界面活性剤などに代表される両親媒性分子は溶液中において様々な形状の分子集合体を形成することが知られている。この様々な分子集合体存在下において無機酸化物の合成を行うと,その分子集合体が鋳型として機能し,その構造を反映した種々の形状を有する無機粒子が得られる(有機テンプレート法)。例えば,ヘキサゴナル液晶やラメラ液晶存在下で合成することで,その構造を反映した2~50 nm程度の細孔が規則的に配列したメソポーラス材料を調製することができる。その他にベシクルやリポソームであれば,サブミクロンオーダーの中空粒子が合成できることが報告されている。有機テンプレート法による構造制御は様々な形状を有する無機化合物を合成するための強力な方法ではあるが,リン酸カルシウムの構造制御に関する報告はほとんど無い。最も頻繁に試みられている方法は、親水基にリン酸基を有するアニオン界面活性剤を鋳型としてカルシウムイオンを反応させる方法である。この手法で得られる粒子では、カルシウム層とアニオン界面活性剤層がLayer-by-Layer(LbL)で積層したラメラ構造のみが形成する。これはアニオン界面活性剤がカルシウムイオンと反応することで水に対して不溶の塩を形成することに由来する。しかし、焼成処理で界面活性剤を除去した際に、ラメラ構造は崩壊し多孔質構造を保持することが困難であるといった問題を抱える。これを解決するために、Ostafinらは、アニオン界面活性剤にカチオン界面活性剤を混合することでロッド状のメソポーラスリン酸カルシウムの合成を行っている〔Microporous Mesoporous Mater., 94, 330(2006)〕。ただし、カチオン界面活性剤は生体に対しての負荷が大きく、細孔内部に残存していた場合、人体に与える影響は甚大である。また,ロッド状などの角を有する粒子の形状では,生体組織を傷つける可能性もあり,生体材料として利用する際に障壁となることが予想される。生体材料として利用することを考慮した場合,球状が最適な構造になると考えられる。しかし,リン酸カルシウム粒子の形状の制御についての報告も前例はほとんど無い。これは,リン酸カルシウムを合成する際の晶析反応の進行が速いために,その制御が困難なことが問題になっていると考えられる。そのため,球状のリン酸カルシウム粒子の合成には,晶析反応の進行の制御およびその反応を進行させる反応場の制御が重要になる。 図1 複合有機テンプレート(HOT)法の概略図 以上の問題点を解決し,球状の多孔質リン酸カルシウム粒子という新規な材料を合成するために,私は,複合有機テンプレート(Hybrid Organic Templates:HOT)法という新たな合成法の提案を行っている。HOT法を用いた球状多孔質リン酸カルシウム合成法の概略図を図1に示す。HOT法では,ベシクルやリポソームといった比較的サイズの大きな両親媒性分子集合体を粒子の形状(本研究では球状)を制御するためのテンプレートに,通常の球状ミセルなど研究項目: 科研費採択者助成金(初年度) 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 複合有機テンプレート法を用いた球状多孔質リン酸カルシウムの合成 研究課題名(英文): Fabrication of spherical porous calcium phosphate using a hybrid organic templates method 研究者: 柴田 裕史 千葉工業大学 SHIBATA Hirobumi 工学部生命環境化学科 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      74

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