千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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有し、励起光の周波数幅に依存した数THzに渡る広帯域な周波数特性を有する非線形分極が誘起される。この内、位相整合条件を満たす(もしくは完全位相不整合条件から外れる)周波数成分に相当するテラヘルツ波が遠視野像として観測され、実際の分光で使用可能なテラヘルツ波ビームとなる。プリズム結合方式チェレンコフ位相整合では、実効的に励起光の持つ周波数幅の範囲内全てで位相整合が満たされる為、超広帯域テラヘルツ波発生が可能となる。かつ、表面発生方式である為、結晶によるテラヘルツ波吸収の影響を最小限に抑制した発生が可能となり、高効率化、即ち高出力化が可能となる。テラヘルツ波発生デバイスとしては、ナノ秒領域でのテラヘルツ波発生で既に実績のあるLiNbO3導波路を使用する。 図1 チェレンコフ位相整合によるテラヘルツ波発生例. ただし結果はナノ秒励起光源によるもの. 4.実験及び結果 現在構築しているテラヘルツ波発生実験系を図2に示す。励起光源には、波長1560 nm、パルス幅60 fsec、平均パワー60 mW、繰返し周波数50 MHzのエルビウム添加ファイバーレーザーを使用している。本ファイバーレーザーには第二高調波発生結晶が内蔵されており、基本波1560 nmと第二高調波780 nmが同軸上に出射される。ダイクロイックミラーにより基本波と第二高調波を空間的に分離し(基本波平均パワー30 mW、第二高調波平均パワー20 mW)、基本波をテラヘルツ波発生、第二高調波をテラヘルツ波検出に使用する。テラヘルツ波発生には、研究代表者も開発に関わったアドバンテスト社製のLiNbO3導波路ユニットを 図2 広帯域テラヘルツ波発生実験系. 導入した。テラヘルツ波検出には光伝導アンテナを使用した。当該光伝導アンテナの母材はバンドギャップ1.43 eVの低温成長GaAsであり、当該ファイバーレーザーの基本波では駆動できない。よって第二高調波を使用している。 発生器側では、ファイバーレーザー光基本波をファイバー結合ユニットにより光ファイバーにカップリングしている。検出器側ではファイバーレーザー光第二高調波を対物レンズにより光伝導アンテナに集光している。ダイクロイックミラーから分かれた光の光路長は、基本波の光路長+テラヘルツ波の光路長が、第二高調波の光路長とおおよそ一致するように設置している。検出器側の第二高調波の光路長を光学遅延ステージにより掃引することで、テラヘルツ波電場の時間波形をサンプリング検出する。 現状では、LiNbO3導波路ユニットからのテラヘルツ波の時間波形を取得で来ていないが、熱式検出器であるSiボロメータによる平均パワー計測では、従来型の光伝導アンテナにより発生したテラヘルツ波よりも10倍以上の出力が確認出来ている。今後、テラヘルツ波時間波形を検出すると共に、本光源の周波数帯域を評価し、主に反射分光により土器の非破壊分析を試みる。 5.まとめ 新規の非線形光学技術である、プリズム結合方式チェレンコフ位相整合法をフェムト秒レーザー励起光整流テラヘルツ波発生に適用し、時間領域分光装置の高出力化、広帯域化を実現する。当該装置により、指紋スペクトルが豊富に含まれると考えられる1THz以上の高周波領域において、土器に対する非破壊分析を試みる。LiNbO3導波路ユニットからのテラヘルツ波を確認しており、当該装置による時間領域分光を進めて行く。 参考文献 (1) 水津光司, 石田真也, 山本直人, 吉田淳, 川瀬晃道, "テラヘルツ波分光法による土器非破壊検査の検討," 日本文化財科学会第26回大会, (July 11-12, 2009), 研究発表要旨集, pp. 114-115. (2) Koji Suizu, Takayuki Shibuya, Takuya Akiba, Toshihiro Tutui, Chiko Otani, and Kodo Kawase, "Cherenkov phase-matched monochromatic THzwave generation using difference frequency generation with a lithium niobate crystal," Optics Express, Vol. 16, pp. 7493-7498 (2008). (3) Takayuki Shibuya, Toshihiro Tsutsui, Koji Suizu, Takuya Akiba, and Kodo Kawase, "Efficient Cherenkov-Type Phase-Matched Widely Tunable THz-Wave Generation via an Optimized Pump Beam Shape," Applied Physics Express, Vol. 2, 032302 (2009). (4) Koji Suizu, Kaoru Koketsu, Takayuki Shibuya, Toshihiro Tsutsui, Takuya Akiba, and Kodo Kawase, 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      72

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