千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
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1.はじめに 多くの物質がテラヘルツ帯において特徴的なスペクトル構造を有している事から、土器の原材料である粘土の違いや、同じ粘土を用いた場合でも焼成条件の違いを非破壊で判別出来る可能性が在る。本提案では、代表者が開発して来たナノ秒領域単色テラヘルツ波光源での知見をフェムト秒励起テラヘルツ波時間領域分光法に適用し、高出力・超広帯域テラヘルツ波時間領域分光装置を構築する。かつ、自作の高性能テラヘルツ波分光装置によって縄文式土器、弥生式土器などのテラヘルツ波分光測定を行い、考古学的な知見との相関関係を検討する。 熱量分析やX線解析等の土器成分の分析手法(破壊分析)との相互比較により、テラヘルツ分光で得られた情報の物理的な意味付けを行うと共に、非破壊解析手段としての有用性を検討していく。 2.研究目的 テラヘルツ波とは周波数帯にして約0.3 THz~10 THzの電磁波のことを指し、電波と光波の中間領域に位置する。電波的な物質透過性を有する最短波長域にあり、紙やセラミック、半導体など様々な物質を透過する性質を持つ。かつ、多くの物質がテラヘルツ帯において分子間力等に起因する特徴的なスペクトル構造(指紋スペクトル)を有する。一方、縄文式土器、弥生式土器などの主成分はシリコン、チタン、アルミニウム等の酸化物である。原材料である粘土によって土器の主成分の構成比が変化し、焼成条件によって主成分の結晶構造が変化すると考えられる。テラヘルツ波は測定対象の結晶構造に起因した特異な指紋スペクトルを有する事から、土器の構成要素である酸化物微結晶の成分や結晶構造に違いがある場合、透過率および反射率が変化する。即ち、土器の原材料である粘土の違いや、同じ粘土を用いた場合でも焼成条件の違いを非破壊で判別出来る可能性が在る。 この点に着目し、既に土器のテラヘルツ波分析に着手しており、一定の成果を得ている(1)。石川県御経塚遺跡より出土した3700-2500年前の縄文土器に対し、計100点のサンプルに対し測定を行った所、年代によっておおよそ3パターンの違いが見てとれた。考古学的手法である土器形式での分類からは、これらの時代区分で土器作成法が変化している可能性が示唆されており、本測定結果が土器製作法の変化を反映している可能性が高い。 ただし、土器を透過したテラヘルツ波の周波数領域は0.5THz程度以下と極めて限定的であり、一般的に指紋スペクトルが豊富に存在する1THz以上の領域の情報は得られていない。また、当該研究では、一般的なテラヘルツ分光器である、光伝導アンテナを用いたフェムト秒レーザー励起時間領域分光装置を使用した。本装置は出力が弱く測定周波数域も3 THz程度であり、市販の装置ではこの辺りが限界である。そこで、代表者が考案・実証して来た新規の非線形光学技術をフェムト秒レーザー励起光整流テラヘルツ波発生に適用し、時間領域分光装置の高出力化、広帯域化を実現することで、測定可能周波数領域を大幅に拡大する。かつ、反射分光可能な光学系を設計・開発し、指紋スペクトルが豊富に含まれると考えられる1THz以上の高周波領域での情報を抽出し、土器から得られる情報量の大幅な増大を図る。 3.広帯域テラヘルツ波光源 テラヘルツ波光源開発、分光器開発は発展途上の段階であり、市販の素子を利用した測定の限界点はこのことに由来する。一方、研究代表者の専門は、非線形光学効果を駆使した高性能テラヘルツ波発生法の開拓であり、有機結晶を利用した高出力テラヘルツ波光源の開発や、新規位相整合法であるプリズム結合方式チェレンコフ位相整合法の提案と実証などを行い、最先端のテラヘルツ波光源開発に尽力して来た。特にチェレンコフ位相整合法においては、非線形光学結晶に導波路構造を導入することで、当該結晶を用いた従来のテラヘルツ波発生周波数域を数倍に拡大する事に成功し、かつ、分光応用に適したフラットな周波数特性を持つテラヘルツ波発生に成功している(図1)(2)-(4)。 フェムト秒レーザー光を非線形光学結晶に入射すると、光整流効果によってテラヘルツ周波数帯に中心周波数を研究項目: 科研費採択者助成金(初年度) 研究期間: 2013/4/1 ~ 2014/3/31 研究課題名(和文): 広帯域テラヘルツ波反射分光による土器の非破壊検査 研究課題名(英文): Nondestructive Measurement of earthenware by broadband THz-wave reflection spectroscopy 研究者: 水津 光司 千葉工業大学 SUIZU Koji 工学部 電気電子情報工学科 准教授 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      71

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