千葉工業大学 プロジェクト研究年報 2014年版
77/148

力について自己評価させた.また,各性格因子が6つの質問項目から構成される主要5因子性格検査により,1)外向性,2)情緒安定性,3)協調性,4)勤勉性,5)知性の5因子を評価した.対象者には,これらの質問に「1:全く当てはまらない」,「2:当てはまらない」,「3:どちらともいえない」,「4:当てはまる」,「5:かなり当てはまる」の5件法で回答するよう依頼した.また,社会人基礎力シートは,表1の各要素(計12要素)において3つ質問があるため計36質問で構成されており,すべての質問を5段階(0,40,60,80,100点)で自己評価するように作成されている.ちなみに,各点数の評価基準は,まったく見られない(0点),どちらかと言えば行動がとれていない(40点),どちらかと言えば行動がとれている(60点),行動がとれている(80点),周囲も明らかに認める行動がとれている(100点)となっている.本研究では,第1週目(Pre)と第12週目(Post)の自己評価から各能力要素(12要素)に含まれている3つ質問からの平均スコアを算出し,さらに,各期(PreとPost)の平均値スコアの差分(変化量)を求めた.ただし,変化量がマイナスとなった場合でも学習者の不足している能力への自覚(気づき)が認められたと判断し,変化量はすべて絶対値として取り扱った.そこで,授業開始前の学習者のパーソナリティが,授業実施前後の社会人基礎力の変化量(成果)に関与しているか否かについて相関分析を用いて検討を行った.なお,授業開始前の学習者の各パーソナリティ(5因子)は,5件法で回答された6つの質問の合計点とし,最小で6点,最大で30点として扱った.なお,これらの統計解析にはJMP(Ver.8.0)を使用し,統計的な有意水準は5%未満に設定した. 3.結果と考察 体育教室で検討してきた「スポーツ科学」の授業方略は,社会人基礎力の育成に有効であることは,昨年度の本学学部教育シンポジウムで報告したとおりであるが,本研究は,その教育効果が学習者のパーソナリティに左右されるか否かについて検討を進めたものである.その結果,複数の社会人基礎力の変化量に対し,学習者のパーソナリティが関与している可能性を示した(表1).特に,「チームで働く力」を構成している要素において関連が強いことがわかる.さらに注目したいことは,これらすべてが負の相関関係を示している点である.TBLやPBLは,学習者のモチベーションやパーソナリティによって有効に機能しない可能性が考えられているため,調査開始当初は,パーソナリティの自己評価が高い者ほど,本科目を通じた教育効果も大きくなると予想していた.しかしながら,予想に反して,例えば内向的な傾向にある学習者や協調性について苦手意識を有している学習者ほど,集団スポーツ活動を通じた対人相互作用によって「チームで働く力」や「考え抜く力」の必要性をより強く感じた,あるいは成長を感じたことになる.このことは,アクティブラーニングの学習手法を取り入れた大学体育授業が,自己のパーソナリティをネガティブに評価した学習者にも,大きな教育効果を見出せる可能性があること示している.一方,「前に踏み出す力」おいて有意な相関関係を示したパーソナリティは見受けられなかった.この点については,学習者が主体的に授業参加するために,リーダー(まとめ係),報告係(記録係),観察分析係,準備係といったチーム構成員への役割分担を明確化し,その役割を授業ごとに回すシステムを採用していたことが、学習者のパーソナリティに関係なくこの能力(要素)を向上させていたのかもしれない.まとめとして,本研究の結果が学習者のパーソナリティに応じてスポーツ科学の授業方略を柔軟に調整することにより,その効果の表れ方も異なる可能性を示唆したという点では大変興味深いものとなった.今後,多様な人的,物的条件に対応した大学体育授業の可能性を模索していくことで,高等教育に対する近年の社会的なニーズにも応えることができるだろう. 表1.社会人基礎力の12要素の変化量と学習者のパーソナリティとの相関分析 外向性情緒安定性協調性勤勉性知性主体性-----働きかける力-----実行力-----課題発見力----0.166-0.1139計画力----0.1303-創造力-----発信力-0.1028---0.1202-傾聴力---0.1237--柔軟な対応力-----状況把握力---0.1646--規律力-0.1077--0.1186--ストレス回避力-0.1165-0.1139---数値は、有意な相関係数を示す前に踏み出す力考え抜く力チーム働く力パーソナリティ主要5因子能力12の要素 4.まとめ 本研究は,集団スポーツ実践を用いたアクティブラーニングの成果について学習者のパーソナリティと関連付けて検討した.その結果,特に外向性,協調性,勤勉性の自己評価が低い学習者ほど,授業実践を通じた社会人基礎力への気づきが大きかった.このことから,人間関係が未構築である初年次学生を対象とした導入教育として,スポーツを手段としたアクティブラーニグは有効となる可能性がある. 5.引用文献 1)溝上慎一(2007)アクティブ・ラーニング導入の実践的課題,名古屋高等教育研究,7,269-287. 2)木野茂(2009)教員と学生による双方向型授業―多人数講義系授業のパラダイムの転換を求めて―,京都大学高等教育研究,15,1-13. 3)引原有輝(2012)大学体育授業によるソーシャルスキル獲得の効果の検討-実技種目の特性による効果の差異について-,千葉工業大学学部教育シンポジウム予稿集,145-148. 2014 千葉工業大学附属総合研究所 プロジェクト研究年報          Project Report of Research Institute of C.I.T 2014      65

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です